温泉へ行こう! ―前編―

 ここは某県の山間に建てられたとある国民宿舎。川魚と山菜をふんだんに使った料理、豊富なスポーツ施設、そして巨大露天風呂を売りとしている。
 青学男子テニス部御一行は合宿として、この国民宿舎に宿泊しているのであった。

     ●

 露天風呂から、浴衣姿の男子中学生達がぞろぞろと群れをなして上がってきた。
「やー、いい湯だったな〜」
 湯上がりで上気した顔をタオルで覆った英二は、すぐに目ざとく廊下の先にあるものを見つけた。ロビー風に広くなっているスペースの一角に、温泉にはつきものの緑色の台がいくつか並んでいる。
「お〜っ! 卓球だってよ卓球! やっぱ温泉には卓球だよなあ〜」
 その声に何人かが反応を返す。
「お、いいッスねえ。卓球じゃ負けねえぞ越前」
「……別に」
「お〜し、今夜は卓球大会だ〜!!」
 皆やけにテンションが高い。そんな部員達をたしなめるように見ながら、副部長の大石は言った。
「はしゃぐのもほどほどにな。他のお客さんや宿の人に迷惑をかけないように。それと就寝は十時だから、しっかり守れよ」
 その言葉を聞いて、英二は頬を膨らませた。壁の貼り紙を指差しながら抗議の声を上げる。
「えー? でもこれ見ろよー。露天風呂とかもっと遅くまで開いてるのに……」
「合宿の決まりだからな。守らないとまた手塚に走らされるぞ」
「……ちぇー。まあいいや。おい桃、おちびちゃん〜、待てよ〜!」
 すでに桃城を中心としたメンバーが卓球台を囲んでいる。彼等を追うように卓球場の方へ駆けていく英二を見ながら、ふと、大石はある事を思い出した。振り向いて、後ろにいた不二に尋ねる。
「そういや、手塚、露天風呂に来てないよな……」
「うん、見てないね。まあこの集団で温泉に入っても疲れるだけだろうし」
「……その通りだな」
 騒がしくなった卓球場の方に目を向けながら、大石は溜息を付いた。
 廊下の向こうから菊丸が二人を呼んでいる。その声に応じて大石も卓球場の方へと向かった。
 一人残された不二は、露天風呂の方に視線を向けた。
 その顔には、意味ありげな笑みが浮かんでいた。

     ●

 就寝時間を過ぎてもなんだかんだと騒がしかったテニス部員達だが、皆今日の長旅と猛特訓と卓球大会に疲れたのだろう。夜十二時を過ぎる頃にはほとんどの部員が寝静まっていた。
 だが、中にはこの時刻にわざわざ起きだすものも、当然、存在するのである。

 露天風呂前――。
 そこには浴衣姿の人影が、左手に風呂桶をかかえてつっ立っていた。
 青学男子テニス部部長、手塚国光その人である。
 手塚はおもむろに周囲の様子を見まわした。細縁眼鏡の下からのぞく眼光も鋭く、慎重に人の気配を伺う。そして近くに誰もいないことを確認してから、暖簾をかき分け露天風呂へと1歩を踏み出……そうとした。だが急にためらうように足を引っ込めた。
 もう一度足を揃えた状態に戻すと、軽く二、三回深呼吸をする。そして風呂場の暖簾を見据えると、今度こそ、力強く、露天風呂へと足を踏み入れた。

 ……このあからさまに挙動不信な手塚の姿を、廊下の曲がり角から見つめる視線があった。
 だが、手塚はこの事に全く気付いていなかったのである。

 さすがに深夜をまわったので、開いているとはいえ露天風呂に客は誰もいなかった。だが手塚は念のため、風呂への入り口からは見えない、風呂の中央にある岩の後ろまで移動した。
 お湯は近くで湧き出る単純硫黄泉を使用した、まぎれもない「温泉」である。鼻につく硫黄の臭いが辺りに漂っている。 無人の露天風呂に響くのは打たせが落ちる音だけだ。
 白濁したお湯に肩まで全身を浸け、ようやく肩の力を抜いて、手塚はゆっくり息をついた。
 就寝時間をとうに過ぎた深夜に露天風呂に入りに来ているなんて、こんなところ、部員やコーチに見つかったら何を言われるかわかったものではない。だから散々迷ったのだが、じっくり温泉を味わうためにはこれしか方法がなかったのも事実だ。他の部員と一緒の時間に入っていれば、こんなに落ち着いて風呂に入る事は確実に無理だった。
 岩に背をもたれ掛けて、手塚は空を仰いだ。夜空には満天の星空が浮かんでいる。東京ではまず見られない光景だ。この時間だと近くの人里などの明りも消えているので、星はいっそう夜空によく映えていた。まして今夜は新月だ。月の光にも邪魔をされずに星の輝きを楽しめる。その圧倒的な星の量には、ある意味恐怖すら感じる。
 今ここに来て正解だったな、と手塚はしみじみ思った。あの騒がしいメンバー達と一緒に風呂に入っていては、また早めに露天風呂に来ていては、この光景を堪能することは出来なかっただろう。
「そうだね♪」
 突如、背後から相槌が返って来た。まるで手塚の心の中を読んだかのようなタイミングで。手塚はぎょっとして後ろを向いた。
 岩の後ろから手塚の方を伺うようにして顔をのぞかせているのは、(当然)不二だった。
「いーのかな? 部長が就寝時間後に起き出したりして」
 内容とはうらはらに、非常に嬉しそうに不二が言う。手塚の頭の中はパニックに陥っていた。まずい、よりにもよって、一番弱みを握られたくない奴に見つかってしまった。
「…………っ!」
「あれ? ひょっとして焦ってる?」
「! ………………!!」
「そうだよね、深夜に一人で温泉なんか入ってた事がばれたら大変だもんね。しかも部長が、ねえ?」
「…………それは、……お前も、同じじゃないのか」
 なんとか内心の動揺を抑えて、手塚は言葉を紡ぎだした。こんな時間にここにいる時点で二人とも同罪だ。
 だが不二は全く動じずに、更に手塚の方へと身体を接近させた。座っている手塚の横に手をついて顔と顔を寄せる。開いた不二の瞳と視線が交わり、手塚は身を固まらせた。
「だから、お互いに黙ってればいいんだよ」
 不二は右手を手塚の首もとに寄せた。ほのかな明りの中でひときわ浮かび上がっている白いうなじに触れる。唇が触れるぐらいまで顔を近づけて囁く。
「……二人とも共犯なんだから、ね?」
「っく……」
 何も言えない手塚の唇に不二は自らのそれを重ねた。ついばむような軽いキスを繰り返しながら、首筋に腕を絡みつかせる。その手の動きに悪寒を感じた手塚は、思わず身を引いて不二の身体を引きはがした。

 静かな露天風呂に激しい水音が響く。

「……いい加減にしろ!」

 怒って手塚は湯から上がろうとした。だが、不二は満面の笑顔でそれを呼びとめた。
「そんな態度でいいの? みんなにバラしちゃうよ? 部長が深夜に一人で露天風呂に入ってましたって」
「…………」
 足を止め、立ちつくす事しか出来ない手塚は、眉間に精一杯しわを寄せながら不二の方を向いた。だがそんな手塚の脅しに不二が動じるはずもなかった。むしろ、手塚が怒れば怒るほど、嫌がれば嫌がるほど楽しんでいるようにすら見える。
 不二はあいからわず、いつものニコニコ顔のままこう言った。
「とりあえず、身体でも洗いに行こうか」

     ●

 半分不二に引きずられるように、洗い場に連れてこられた手塚である。
 しぶしぶながら、椅子に座って身体を洗い出した手塚に対して、不二がある提案を持ちかけた。
「背中、流そうか?」
「結構だ」
「まあそう言わずに」
 きっぱりと断った手塚の言葉を聞かずに、不二は手塚の後ろにまわりこんだ。手にはボディーソープの容器を持っている。すでにスタンバイOKである。
 不二は手に蜂蜜のような色のボディーソープをとると、それを直接手塚の背中に塗りつけ始めた。
「!?」
 素手とボディーソープの感触に驚いた手塚は、振り向いて静止の声を発した。
「お前、な……止めろ!」
 だが不二は動きを止めず、今度は両手でボディーソープを泡立て始めた。
 白い泡にまみれた手が、肩甲骨をなぞるようにしながら背中全体を撫でまわす。嫌な予感がして思わず腰を浮かしかけた手塚だが、
「じっとしてないと、……バラしちゃうよ?」
 こう言われると椅子に座りなおさざるを得なかった。不二の手は次第に下のほうへと下り、尾低骨の辺りを集中してさすり始めた。そこからさらに進もうとする手の動きに、手塚の息が次第に熱くなってくる。
 何時の間にか、不二は手塚が自分で洗った腹部にも手をまわしていた。脇腹や腹筋を撫で上げられて、手塚は思わず身体を揺らした。
「あれ? どうしたの?」
 手塚の耳元に囁く。
「……ひょっとして、感じてきた?」
「! ……違う!」
 わずかながら手塚の顔に赤みがさした。その動揺の隙を狙って、不二は背中から手塚に覆い被さり、二人の身体をぴったりと密着させた。
「……身体、熱くなってるよ、手塚。洗ってあげてるだけなのにね ……いったい何を考えてるのさ?」
「あのな……!」
「ひょっとして、アノ時の事とか? やらしいなあ……」
 耳たぶを甘噛みしながら言う不二を、手塚は横目で睨みつけた。
「お前、……これのどこが、「身体を洗う」、なんだ!?」
「ちゃんと全身洗ってあげるよ。ココとかもね……」
 そう言いながら、不二は手塚の胸の突起をぎゅっと摘まんだ。急に与えられた痛みに、手塚は思わず出そうになる悲鳴を必死に抑えた。先端に爪を立てられ、摘ままれ、指の腹で乳頭を押し潰すようにされた乳首は、徐々に色づき尖っていった。純白の泡の中でその色あいはことさら際立っている。
「見てごらん、こんなにキレイになったよ。イチゴみたいだね、赤く熟れてて美味しそうな……」
「もう……いい加減に、はな……せ……っ!」
「……君だって誘ってたんだろ? こんな夜中に一人で露天風呂に来るなんて。いつもみたいにして欲しかったんだろ?」
「そんな……訳……あるかっ……」
 一応これでも警戒はしていた手塚だ。だが甘かった。はっきり言って甘かったとしか言いようがない(合掌)。今までに不二にされてきた行動を考えれば、こうなることは容易に想像がついたと言うのに。
「嘘つきな口にはお仕置きが必要だね」
「……んうっ」
 抗議の声をあげる手塚の口に、不二は開いている左手の指を二本指しこんだ。そのせいで手塚は声をあげようにもあげられなくなる。泡のついた人差し指と中指で口中をかきまわされ、舌を絡められる。泡の苦味に反応して唾液が溢れ出てくる。
「んっ……うう……っ」
 喉の辺りまで指を指しこまれて、手塚の目じりに生理的な涙が浮かんだ。口の端からは飲み下せなかった唾液が垂れ流れている。不二はそれに口を寄せ舌で舐め取った。
 口内を犯されるかのような刺激になんとか耐えようと、手塚は身体を震わせる。だがそのたび、先ほど背中に塗られたボディーソープが手塚の背中と不二の胸部に擦られ、ぐちゅぐちゅと音を立てる。ぬるぬるした生暖かい感触がより手塚の官能を煽りたてる。胸への愛撫もいまだ続けられている。
 何度も何度も不二との行為に慣らされた身体は、こんな前戯だけでも火がついてしまっている。身体を重ね合わせ体温を共有し、口と乳首と言う二つの性感体を一度に弄ばれているうちに、身体はもっと直接的な強い刺激を欲しがりだした。すでに下半身に甘いうずきを感じ出している。だが不二は下半身にはまだ手を伸ばそうとしない。
 ……不二に触られて感じてしまっている身体の状態に猛反発していた理性も、今やもう風前の灯火であった。
 そんな手塚の状態などお見通しの不二は、急に胸と口への愛撫を止めた。唾液の糸を引きながら口内から出ていく指を舌が無意識のうちに追ってしまう。出ていって欲しくないとでもいうように。
 不二は密着した姿勢はそのまま、再びボディーソープに手を伸ばした。蜂蜜のような色をしたそれをたっぷり手にとって、手塚の目の前に指し出す。
「……下も、洗ってあげるよ」
 そのまま腕を下ろし股間を覆うタオルの隙間にさっと手を指し込んだ。既に硬度を増し始めている手塚自身に触れる。
「っ!」
 ただ触れられただけで、みるみるうちに成長する自分を感じて、手塚は顔を反らした。
「……やっぱり淫乱なんだね手塚は。身体洗ってあげてるだけなのにこんなに感じて」
「ちが……うっ……」
「何が違うっていうの? こんなに大きくしちゃって、触って欲しかったんでしょ?」
 気を抜けば出そうになるあえぎ声を抑えるのに精一杯で、手塚はその問いかけに答える事も出来ない。
「欲しいなら欲しいって言ってみなよ」
「! ……んんっ!」
 立ち上がった棹をゆるく掴んだ不二は、上下に手を動かしながらボディーソープを塗りつけていく。二つの実を揉みしだき、足の付け根に指を這わす。不二は手塚の身体のイイ所を全て知っている。自分が開発した手塚の弱いところを的確に突いてくる。身体が待ち望んでいたダイレクトな刺激に、手塚の神経は過剰に反応した。意識が薄れていく。大きな波に飲まれ、自分が自分でなくなっていくようなあの感覚に襲われる。
 たまらず身体を二つにおり足をきっちり閉じて不二の愛撫から逃れようとした。だが、不二はそんなことを許さなかった。ひときわ強く根元を握りしめられて意識が飛ぶ。その隙に不二はもう片方の手で手塚の身体を起こし、股を広く開かせる。
「くっ……!」
「ほら、目を開けて……もうびちょびちょになってる」
 下腹部につくぐらいまで反り返った性器の先端からは、とろとろと透明な液体が溢れ出している。それはたっぷりと絡められたボディーソープと混じりあって泡立ち始めていた。不二はなおも執拗に指で性器を責め続けた。 裏の筋にそって何度もなぞり上げ全身を擦る。手塚は目を必死に閉じていた。しかし、耳までは塞ぐ事が出来ない。ボディーソープと先走りの液が混じりあうヒワイな音が耳に入ってくる。やがてその音だけが脳内を満たしていきなにも考えられなくなる。
「うう……ンッ……!」
 気が付けば手塚は無意識のうちに自分から股を大きく開きだしていた。張りつめた腿の筋肉がびくびくと震えている。眉根を寄せ、上気した表情で宙を仰いでいる。薄く開いた口から漏れる声には快感の色が濃い。そろそろ限界らしい、と悟った不二は、手塚ののけぞった白い顎に一度キスをすると、先端の穴に爪をたててぐりぐりと食い込ませた。
「ヒッ……、ん……んんっ!」
 わずかな悲鳴のような声をあげて、手塚は不二の手の中で達した。
 腹部の泡の中に白い液体が飛び散っている。余韻に浸っている手塚からようやく身を離して、不二が言った。
「……せっかく洗ってあげたのに、汚しちゃって」
「……勝手な……こと……」
 荒い息のもと、自分を見下ろしている不二を、手塚は睨みつける。だが不二は不意に笑顔を見せると、
「そろそろ冷えてきたんじゃない? 泡を流して、お風呂に戻ろうか」
 ……と、シャワーを持ちあげて、そう言った。

     ●

 実のところ、手塚は内心ほっとしていた。さすがの不二も公共浴場でこれ以上のことはしないだろう……と。
 しかし、これだけで終わる不二ではないことを、手塚はいまだ解っていなかったのであった。 


……後編(風呂の中で本番編)に続いたりする……

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