立海戦シングルス2終了後。
一時的なものとはいえ、頭にボールが当たったショックで目が見えなくなっていた不二は、病院に担ぎ込まれていた。
視力は数時間で取り戻していたが、一応大事をとってその日は病院に宿泊し、翌日脳の精密検査を受けることになった。
そんな病院での一夜のことだった。
:*:・。,☆゚'・:*:・。,★,。・:*:・゚'☆,。・:*:
(病院って静かで暇なんだよね……)
ベッドに横になりながら、不二は軽く溜息をついた。
時間は夜10時、院内の消灯時間は越えているが、不二は寝付いていなかった。
体は疲れきっているはずだが、頭の方が眠ろうという気にならなかった。
昼間の試合の興奮がまだ残っている。
上半身を起こして、自分の掌を見る。病室は個室だから、多少動き回ってもまわりの迷惑にはならない。
(……すごかった)
目が見えなかったあの状態が、自分だとは到底信じられなかった。
思い出しただけで体が熱くなり、心臓の音が高鳴る。
その熱は未だに冷めていない。
(気持ちよかった……)
あれが、「本気になる」ということだったのだろうか。
かすかに口元に笑みがこぼれた。
(君も、あの時こういう気持ちだったのかな)
すべてを出し尽くした、快感。
自分は彼と同じものを味わえたのだろうか。
(……見て欲しかったな)
試合の時の自分の姿を見たら、彼はどう思ってくれるだろうか。
喜んでくれるだろうか。
そんなことを考えていたら、無性に彼の声が聞きたくなった。
(会いたいなー……)
とは言っても、彼は遠く九州の空の下だ。
電話をするにしてもここは病院だから無理だ。
諦めて不二は肩を落とした。
(……せっかく勝ったんだから、ご褒美に来てくれないかな、手塚)
無理だと解ってはいるが、そんな夢想をせずにはいられなかった。
(ついでにいろいろとさせてくれたりしないかなー……)
妄想はだんだんエスカレートしていった。
そんな時だった。
<こんばんはー、不二君>
誰かの声が病室内に響いた。しかも知っている声だった。驚いてはっと身を起こす。
「!!!!!」
……部長、だ。
今のテニス部部長である手塚でも、部長代理である大石でもない。不二が一年生の時の部長の声だった。
恐る恐る室内を見回すが、声の持ち主の姿は見当たらなかった。だいたい、消灯時間を越えた病院内に無関係の人間がいるはずがないのだ。いくら神出鬼没が売りの奇人変人部長とは言え。
聞き間違いか、とほっと胸をなでおろした。
だが再び同じ声が聞こえた。
<ここですよー。不二君>
「…………」
目を閉じて、気のせいだと無視しようとした。
<こっちですってば、不二君>
だが声はしつこかった。こわごわと瞳を開けて声がする方を確認する。だが、声の持ち主のいる場所はベッドの上、つまり自分の真正面だ。そんなところに人がいるはずが無い。いたらさすがに重みで気づくはずだ。
だが確かにそこにはそれがいた。
「…………!!!!!!!!!!」
<はじめまして、不二君>
思わず不二は身を引いた。
全長30cmの声の主が、ちょこんと自分の足の上に立っている。
顔は不二がこの世で一番苦手としている、あの人だった。 だが、白い貫頭衣を頭から被り、背中からは昆虫のような半透明の羽が四枚生えている。 頭からは二本、先端に球体の付いた触覚のような何かが出ている。
小さいころに読んだ童話の挿絵や乾から借りたRPGのイラストがふと、脳裏に浮かんだ。
ああいう格好をしたものは、それらではこう呼ばれていた。
妖精、とか。
しかし、顔はいつものあの変態だった。 ご丁寧に眼鏡も無精髭もそのまま。
「……大和部長」
下を向いて、不二はそう名前を呼んだ。
<いいえ、僕は妖精です>
謎の全長30pのUMA(未確認生物)はぬけぬけとそう答えた。
だが不二は右手を伸ばして、その胴の部分をがっしりと掴んだ。
そのまま力を込めて握り締める。
突然の暴行にUMAはうろたえたようだった。
<な、何するんですか……いきなり……!!>
「うわあどうしよう幻覚や幻聴はもちろん触覚までおかしくなってるよ僕……やっぱり頭にボール当たったのまずかったかなあもう……」
不二は口先だけでぶつぶつとそう言った。
右手にさらに力を入れる。
<く、苦しいです……よ……>
ぐぇ、と情けない声が上がるが構わなかった。こんな生物の生死など。
これは幻だと信じ込もうと必死だった。
「……だいたいおかしいよねどーしてあの変態がこんなちっちゃくなっててふざけた衣装着て僕の目の前にいるんだろうね手塚なら妄想の産物でも全然かまわないんだけどフィギュアみたいで可愛がっちゃうよ……」
その言葉を聴いて、瀕死だったUMAの瞳がわずかに輝いた。
<そ……その、手塚君のことで、君のところに来たんです……っ>
それを聞いてぱっと不二は手を離した。
「手塚、の?」
目をぱちくりさせてUMAを見る。
UMAは四つんばいになってげほげほと何回か咽ると、息を整えてからようやく立ち上がった。
「手塚のことが何だって言うんですか?」
不二は思わず敬語で問うた。
それで、目の前のUMAは偉そうに胸をそらして答えた。
<僕はその大和さんではありません。何を隠そう妖精です>
「馬鹿馬鹿しいこと言わないで下さい」
UMAは堂々と名乗ったが、あっさりと不二は切り捨てた。
見た目はどうみたって大和祐大30cmバージョンの妖精なんか信じられるか。
「そんなつまんない嘘信じませんから。どういうトリックか知りませんがこんな真似貴方以外の誰がするんです」
<よ、妖精ですよー……君の一番信頼する人間の姿を借りるだけで……>
「だからいいですよ嘘つかなくても。何僕が貴方のこと信頼してるみたいなずうずうしい言い方してるんですか。まあそんなに主張するんならそういうことにしておきましょうか」
<…………>
妖精とか名乗るUMAは落胆したように俯いた。
<ええと、まあそれでいいですもう……違うのにー……>
「で、手塚が何なんですか?」
そっちの方が気になる不二だった。
<え、ええと、そうでした……そっちが本題です>
妖精の顔が明るくなった。ようやく本題に入れて喜んでいるらしい。
<今日の試合、お疲れ様でした。よく頑張りましたね>
「それはどうも。で、手塚は?」
<そう焦らないで下さいよ。僕は頑張った不二君にご褒美を与えにきました>
妖精はにこりと微笑んだ。
「…………?」
<理想の手塚君、です>
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病室のドアが静かに開いた。
「…………!!!」
そこに現れた人物の顔を確認して、不二は目を丸くした。
「手塚……!!」
「……不二」
白いシャツをまとった手塚がそこにいた。
少し優しげな表情を浮かべて、不二にぎこちなく微笑みかけている。
「よく頑張ったな、不二」
「ど、どーして……だって君九州でそれにここ病院だしもう一般の来客って……」
答えたのは手塚ではなかった。
<まあ、これは不二君の理想の世界ですから。パラレルワールドの一つです。その世界に不二君を案内しました>
姿は見えないがどこからともなく妖精の声が響く。
手塚が病室にやってくればいいな、と確かに自分は望んでいた。
その世界が実現した、ということらしい。
(と、いうことは……)
不二はごくりと生唾を飲んだ。
手塚はすっと不二のベッドの横にやってきた。
「目の方は大丈夫なのか」
「う、うーんと……えーと一応明日精密検査だけど今これと言って問題はないよ」
実際はひょっとしたらこんな幻覚を見るぐらいだから、だいぶやばいのかもしれないが。
「無理はするな」
「……わ、解ってる、よ……」
そうやって会話しながらも、不二の頭の中では一つの葛藤が起こっていた。
自分の夢想がこうやって現実になってる世界ってことはそのついでの妄想も期待しちゃっていいのか。それともやっぱりそれはさすがにダメなのか。だいたいこんなこと手塚に言ったら絶対怒られるっていうか半殺しにされても仕方ないし。
そんな葛藤を見抜いて、妖精の声が聞こえた。
<大丈夫です。不二君の思うがままの世界ですから。それに元の世界の手塚君には何も影響ありません>
「…………」
それなら何を言ってもいいか、という気分になった。
「て、手塚、その……僕、ちゃんと、本気出せたみたい、だから」
「そうだな」
手塚は目を細めた。
「だから、その……ご褒美、欲しいんだけど」
不二が勇気を出して言った言葉に、手塚は少し表情を硬くした。
やっぱり怒られるかと、不二は身構えた。
しかし。
正反対のことが起こった。
「……お前の喜ぶものなど、俺には、これしか、思いつかないんだが……」
手塚はそう言うと、シャツのボタンを一つずつ外し始めた。
下を向いた頬はやや赤らんでいる。
(あ、ありえない……)
不二はめまいがする思いだった。
自分から脱ぎ出す手塚なんて。
これまで何回か肌を重ねてきたが、絶対に、ありえなかった。
「……不二」
手塚が不二を伺う。
顔は羞恥で真っ赤だが、その中にかすかに不安げな色がある。
「だ、ダメか……これでは……?」
「いや全然そんなことはないけど!!」
不二は即答した。
そして胸のはだけた手塚の体を抱き寄せると、腕の中に抱きしめた。
「……うん、嬉しい。最高のご褒美」
腕の中の手塚があからさまにほっとしたのが解った。
手塚から求められるなんて、何か違和感はあるが、所詮自分の妄想なのだから、と。
不二はそう思うことにした。
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抱き合って軽くキスを交わした後、ベッドの上に手塚を呼び寄せると、開いた自分の足の間に座らせた。
「じゃあ……手塚がしてくれる?」
「……ッ」
「僕もしてあげるから、ね?」
不二の言葉に、手塚は少し身を強張らせた。
だが文句は言わず、ゆっくりと体を下げ、不二のズボンに手をかける。
それが答えだった。
「ん」
下着の中に入れられた手塚の左手の指が不二の性器に触れる。細長い指先の感触を感じて体が熱くなった。
手塚は恥ずかしいからかじっと目を閉じている。そして俯きながら、不二のものを恐る恐る丁寧に握り締める。
「うん……もっと強く触って」
不二が促すが、手塚の掌の動きはずっとゆるやかなものだった。こらえきれなくなった不二は自分でその例を示すように、手塚のズボンの中に左手を突っ込んだ。やや乱暴に全体を握り締めて無理やり扱き上げる。そうでなくても利き手ではないので、細かな調整が出来ず扱いが荒くなる。
「……っく……」
そんな荒々しい愛撫に対してもも手塚の体は反応を返していた。
手塚の右腕は不二の肩に置かれているが、その右手を通して体の震えが伝わってくる。震える手塚の体を支えるように、不二は空いている右手で手塚の腰を支えた。
「気持ちいいでしょ? 君も同じようにやってみて」
手塚自身を握り締めた手をゆるやかに上下に動かすと、それは簡単にどんどん硬度を増していった。素直な反応に嬉しくなった。
そしてその反応に比例して、手塚の方も体の押さえが聞かなくなったのか、緩やかだった左手の動きが鈍く、かつ荒いものに変わっていく。それで不二の息も次第に荒くなった。
そうやって、しばらくお互いにお互いを高め合う。
不二が少し手に力を込めると、手塚も感じてぐっと不二のものを握り締めた。
その刺激に不二が顔をしかめる。
「っ……手塚、痛い」
「すっ……すま……ッ!」
その仕返しと言う意味もこめて、不二はさらに奥に手を伸ばすと睾丸をぐいぐいと揉み解した。
「ん……っ!!」
「ダメだよ。ちゃんと優しくてよ……」
袋の中の球状の部分を掌で転がすようにすると、手塚の全身が跳ねるように反応した。
「く……くぅっ……!」
手塚の先端から溢れ出しはじめた透明な液体で不二の手が濡れた。もう限界が近いらしい。自分のものを触る手塚の手が止まってしまっている。
そのことに気づいて、不二は自分の手もぴたりと止めた。
「……?」
限界近くで刺激を止められて、手塚は俯いていた顔を上げた。頬は赤くなっているし目はかすかに潤んで揺れている。
愛撫を止めた不二のことを不思議がっている視線だったので、不二はちゃんと答えを教えてやった。。
「……手塚もちゃんと手、動かしてよ」
「ッ……」
手塚が唇をかみ締める。自分ひとり感じていたのをようやく理解したらしい。
「じゃないと不公平でしょ?」
「……す、すまない……」
下を向こうとした手塚の顎を不二は掴んで持ち上げた。
「ああ、じゃあ、今度はこっちでしてくれない?」
そう言って、親指で手塚の薄い下唇をなぞった。
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不二の股間に顔を近づけると、手塚はまずゆっくりと服を脱がせにかかった。手塚がズボンを下ろしやすいようにわずかに腰を上げてやる。
手塚は自分が今まで高めていたものを取り出して、両手を根元に置いた。そして少し躊躇した後、おもむろに舌でその先端を舐めた。
ざらついた舌の感触が脊髄を通って駆け上がってくるようだった。
(……うわあ)
それだけでイくかと思った。
さすがにそれはもったいないので我慢したが。
さすがに抵抗があるのか、手塚は全体を口に含むようなことはしなかった。ただ先端を少しだけ口に含んだり、棹の部分をアイスキャンデーのように舌で舐めているだけだった。だが、その稚拙なフェラが下手に慣れているよりもずいぶんと刺激的だった。
「うぅ…………」
不二自身も、どんどん熱がそこに集中していくのがわかった。時々それが震えて手塚の口内で思わぬ刺激を与えていることも。
荒い息遣いが内腿に篭っている。
「……っう……」
気がつくと不二のものを口にしながら、手塚がいやに下半身を揺らし始めていた。先ほどぎりぎりまで高められてほっておかれた手塚自身の性器はまだ達していない。それに気づいた不二は軽く微笑んでこう言った。
「感じちゃってるんだ。僕のモノ舐めて」
「んむ……っ」
手塚は否定するように首を横に振ったが、それも虚勢であることは下半身を見ればすぐにわかった。
手塚の頭を優しく撫でながら不二は言った。
「いいよ、ただし自分で触ってみて」
「むぅ……」
不二の提案を、手塚はしばらく無視をして黙って口淫を続けていたが、やがて我慢できなくなったのか、そろりと自分の左手を不二の根元から動かすと、自らの股間へと伸ばした。
「くっ……」
股間に手が届くと、屈辱と快楽に手塚の表情がゆがんだ。口に含んだ不二の先端に軽く歯が当たって新たな刺激となる。
思わず手塚の柔らかい髪を握り締めた。
「正直だね……」
「……んっ」
快楽に忠実に手塚は自分のものを扱きあげた。口の方が疎かになっているが、それよりもあの手塚がこんな体勢で自慰をしている姿の方が不二にはいい光景であった。
手塚が自分のモノを高めるたび、右手と口が正直に不二のモノにも刺激を与える。
「も……」
手塚が泣きそうな声を上げたが、その声を封じるように、不二は髪の毛を掴んで手塚の頭をぐっと自分の股間に押さえつけた。
「!?」
驚いた手塚は何をされているのか解ってないうちに、気がつけば喉の奥まで不二のペニスを飲み込まされていた。不二は手塚の頭を乱暴に上下に揺らして、自分のモノを出し入れさせた。手塚が苦しそうに眉根を寄せるが、それにも構わなかった。
イラマチオをされながらも、手塚の腕は止まらず自分のものを扱きあげた。
「ん……!」
二人が達したのはほとんど同時だった。
手塚は自分の手の中に白濁液を吐き出し、不二は達する直前に髪を掴んだまま手塚の顔を引き上げて、口内から自分のものを取り出していた。
不二が射精した精液は、手塚の顔面に浴びせかけられていた。
前髪、色白の頬、赤い口元、そして眼鏡に、白い汚れが飛び散っている。
髪を後ろに引っ張って、茫然自失状態の手塚を仰向かせると、だらりと精液が頬を伝って落ちた。
「……綺麗だよ」
手塚はまだ射精直後の放心状態のままだった。四つんばいだった体勢もいつの間にか膝が崩れてベッドに横になっている。
何をされたかよくわかっていないままのようだった。
「不二……?」
不二は手塚の眼鏡を取ると、枕元においてあったタオルで手塚の顔を拭ってやった。
徐々に手塚の瞳が意思を取り戻していく。
それを見計らって声をかけた。
「君も気持ちよかった?」
「っ……!」
問われて手塚が横を向く。
手塚は顔を拭おうとしたが、自分の左手も汚れていることに思い当たり、憮然とした表情になった。
それを見かねて、不二は自分の使っていたタオルを差し出した。
手塚は身体を起こすと、黙りこんだままそれを受け取った。
「……ごめんね。怒らないでよ」
不二は不機嫌そうな顔の手塚を抱き寄せると、妙に明るい声で謝罪した。
手塚は黙り込んだまま、何も言わなかった。
「やっぱりこういうの嫌? 抵抗しないの?」
耳元に唇を寄せてそう言葉を吹き込む。
「違う……そうじゃ、ない」
瞳を閉じたまま、手塚は不二の顔を見ないで答えた。
「……お前が、欲しい」
そう答えた手塚に、不二は少し目を見開くと、寂しげに微笑んだ。
「解った」
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つまりこの手塚は自分の妄想の産物で、決して本物ではない。
そう思うと妄想に駆られた自慰みたいで非常に気が抜けたが。
それでもまあ、今日はいいか、と言う気分になった。
「本当に今日、僕、ちゃんと頑張ったんだよ」
手塚の股間に顔をうずめ、後ろの穴をもてあそびながら、不二はそう呟いた。
今穴には三本の指が入っている。指と舌で時間をかけてほぐしたそこは、すでにどろどろに熱を帯びていた。入れたときのことを考えると自分の体も熱くなった。
「ん……聞いた……っ」
「見て欲しかったな、君に。君のおかげだから」
「ああ……俺も、見たかったっ……」
中で指を捻るたび、手塚の体が跳ねた。硬くなっている前も揺れる。
それでも手塚はなんとか切れ切れに言葉を紡いだ。
「よく……頑張ったな、不二」
手塚が不二の髪に触れて撫でる。
「本気に、なれて……よかったな……」
「……うん」
不二はそれに答えるように指の動きを激しくした。
髪を握り締める手塚の指に力が篭る。
「もうっ……」
「欲しい?」
顔を上げて上を向くと、手塚は小さく、だがはっきりと、首を縦に振った。
正直に。
それに不二も素直に答えた。
上半身を起こすと、手塚の足を少し持ち上げて、正常位でほぐれたその場所に一気に挿入した。
「う……ん……っ」
いきなり深くまで入ってきたそれに手塚の体がこわばる。ほぐれていたはずの穴の肉もぐっと締まる。だがそれにかまわず、不二は無理やり肉の壁を割って貫いた。
その痛みに耐えられなくなったのか、手塚は不二の背中に爪を立てた。その痛みが熱くて心地よかった。きつい肉壁にはさまれて全身も熱くなった。
その熱さは今日の試合に似ていた。
どくんと胸が高鳴るのを感じた。
「手塚……」
手塚は瞳を閉じてぐっと不二にしがみついていた。
一度入るところまで入れると、ゆっくりと腰を引いていった。
「んく……」
先ほどとは逆の出て行く動きに、手塚の中が震える。
先端ぎりぎりまで引き抜いて、そこで再び一気に早い動きで突き上げた。
「アァ……っ!!」
我慢できなくなったのか、手塚が高い声を上げる。
二人の腹の間で擦れ合っている手塚自身も、すでに濡れはじめている。
そのまま不二はピストン運動を繰り返した。今日の試合で体は疲れているはずだったが、そんな疲労感は体にはまったくなかった。
動く早さに緩急をつけて、手塚に快感を与える。
ぴったりと重なり合った体は、皮膚も熱も体温も心音も感じあえていた。
「ふ……不二っ」
息も絶え絶えになりながら、手塚は朦朧とした様子で不二の体を抱きしめた。
肩に手を回して、肩に顔を乗せる。
そこで一度間をおくと、手塚はこう呟いた。
「……好きだ……っ」
その言葉を聞いて、激しく体を揺らしていた不二の動きがぴたと止まった。
「……うん」
不二は微笑んで首を縦に振った。。
そして手塚の体を一度引き離すと、再びその足を抱えあげた。
腰を掴んでさらに深くまで潜り込ませる。
「んく……ッ」
手塚の顔が歪む。
それを見下ろしながら、不二は達するまで何度も抽送を繰り返した。
「……僕も、好きだよ、手塚」
下半身だけで繋がりながらそう言う。
その顔には、寂しげな笑みが浮かんでいた。
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「やっぱり、何か違うよなあ……」
数時間後。
一通りのことがすんで、不二はベッドに上半身を起こしていた。隣には全裸の手塚がぐったりした様子でうつぶせになっている。
そんな手塚の様子を見下ろして、肩を落として呟く。
不意に目の前に例の妖精が現れた。
<あ、あれだけ散々やっておいて……何を言ってるんです……>
どことなく顔が赤い。そして不二と決して目をあわそうとしない。視線を逸らしてもじもじしながら不二にそう言う。
「だって違うものは違うって言うか」
不二は少し顔をしかめて答えた。
「だいたい、自分から誘ってくる手塚ってなんかそもそもおかしいし」
<でもそんな手塚君が欲しかったんでしょ>
「まあ、ご褒美とかたまには良かったけど。これいつもだとさすがに萎えるかもなあ」
<……我侭ですねえ>
妖精が呆れたような溜息をつく。
「だいたい、……理想の手塚なんて、欲しいわけじゃないし」
<…………>
「僕の思い通りになる手塚なんて、結局そんなの本当の手塚じゃないから。だいたい自分の理想そのもの相手なんてなんか自慰みたいで情けない気分になるし」
寝ている手塚を見下ろして不二は言った。
「だいたい……本当の手塚に失礼だ」
顎に手をついてふくれた顔をする不二に、妖精は微笑んだ。
<そうですね>
ふと、不二の視界がぐにゃりと歪むと、気がついたときには手塚の姿が消えていた。そして妖精の姿も。
<……それとですね>
妖精は最後に、声だけでこう付け加えた。
<……向こうも、同じこと言ってましたよ>
「え?」
その意味を確かめる前に、もう妖精の姿は見えなくなっていた。
「…………」
不二はとりあえず、今までのことは夢だと思ってまともに眠ることにした。
:*:・。,☆゚'・:*:・。,★,。・:*:・゚'☆,。・:*:
翌日、検査の前に、不二は外に出て九州の手塚に電話をかけた。
話は主に自分の目のこと、昨日の試合のことになったが、最後に不二はこう切り出した。
「あ、もう検査時間だ……えと、手塚、最後に聞きたいことあるんだけど」
『何だ?』
手塚は何の疑いもなさそうだった。
そんなことはまずないはずなのだが、不二はわずかな可能性にかけてこう質問した
「え、えーと昨日の夜、こっちに来たり……してないよね……」
『……何を言ってるんだ?』
手塚の声が険しくなる。
「やっぱり来てるわけないよね……」
解っていたこととはいえ不二は落胆した。やはりあれは夢か妄想か何かだったらしい。
それでも少しの期待を込めて、こう聞いてみる。
「あ、あのさ……じゃあ、僕、頑張ったから……何か、ご褒美とかアリ、かな……?」
『……そんなことを期待していたのか?』
手塚の声が厳しい。
その反応が寂しい気もする反面、なんだか嬉しい気もした。
「あーうん、そうだよね。ダメだよね」
嬉しそうに答えると、手塚は訝しがった。
『……どうしたんだ?』
「あ、やっぱりこの反応の方がありえるなーって。よかったよかった」
『?』
不二は深くは説明しなかった。というか説明など出来るわけがない。
「なんでもないよ。じゃ、また」
『油断するなよ』
「――うん」
そう言って携帯を切った。
終わる。
72.白に出てきた妖精大和の不二編。そっちを読んでからをお勧めします。
最近可愛い不二とか魔法少女とかしか書いてないことを反省して攻めらしい男前な天才様を書こうと思いました。
……そしたらこんな感じに。おいおいどこが男前やねん天才様。ただの鬼畜って言うんじゃそれ……。
裏テーマは「ダッチ塚」もしくは「ありえない塚」。
基本的に男前受スキーなのでそんな塚しか書けないのですがこれは天才様の妄想だしいいか、と。
思ったら塚が(以下略)
ていうか、エロ部分念入りに書いてたらうっかり消しちゃったよ……
二時間ぐらいかけてたのに……ショック。おかげでエロ省略気味。まあ次回回しで。
あ、タイトルが何故眼鏡かっていうと、眼鏡に白いのを(以下略)
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