「TRIANGLE」

*先によろしければHoney的大和不二塚設定をご確認ください。
 また、ギャグですが、「どんなカップリングでもOKだ!」と言う心の広い方以外はあまりオススメできません。
 特に不二塚の方は不快になられてもこちらで責任を追うことは出来ません。ご了承ください。


 青春学園敷地内にある桜の木には伝説があった。
 その桜の木の下で好きな告白すると、必ず成功するというのである。

 手紙によってその木の下に呼び出された大和は、目的地に相手の顔を見つけてわずかに安堵した。ここにくるまで誰かのイタズラではないかと疑っていたのだ。

「どうしたんですか、手塚君」
「部長……」

 手塚は大和の顔を見ると、ふっと下を向いた。

「何か、お話があったんじゃないんですか?」

 そばに近づくと、優しく声をかける。わざわざ人気の無いここに呼び出してのことだよっぽどの話なのだろう。良く見れば手塚は額に汗をかいている。耳も赤い。よっぽど緊張しているのだろうと思った大和は、優しい声を出した。

「落ち着いて、話してくださいね」

 ぽんと肩に手を置かれて、手塚は少し落ち着きを取り戻したようだった。
 意を決したように、強く顔を上げる。
 その様子に、大和は嫌な予感がした。

「部長……俺……いや、僕は、ずっと、部長のことが……」
「え……て、手塚君!?」
「貴方に『青学の柱になってもらいます』と言われた時から、ずっと……」

 真剣な眼差しで自分を見上げている後輩に、大和はたじろいだ。

 これは。
 もしかしなくとも、愛の告白とかいうものか!?

 放課後に呼び出した手紙、伝説の木の下、そして可愛がってきた後輩。
 生まれてきて15年(多分)、今まで一度たりともこのような典型的な告白などされたことはなかった。だから伝説の木の下であっても彼がそんなことをするとは全く考えていなかった。……実はその後輩はれっきとした同性なのだが、まあその辺りは問題ではない。少なくとも大和にとってはそうだった。

 しかし相手が手塚となると、甘い予感に胸を高鳴らせている場合ではない。
 うろたえる心を必死で落ち着けながら、大和は手塚の説得にかかった。

「ちょ、ちょっと待ってください、そんな……心の準備が……じゃなくて、ちょっと……」
「いいえ、聞いてもらいます!」
「だ、駄目ですよ……」
「ずっと好きだったんです、部長!!」
「……手塚君……」
「男同士でこう言うのって変だと思われるかもしれませんけど、でも、自分の気持ちに嘘はつけません……好きなんです!!」

 顔を真っ赤にして愛の言葉を告げる手塚を、大和は呆然としながら見つめていた。
 性別以外の大問題が一つだけある。
 大和にとって手塚はそういう対象ではない。将来を有望する大切な後輩ではあるが、部にとって大切だからこそ、恋愛対象に持ち込むことはしまいと固く誓っている。部長が一人の後輩に対して熱を上げているのは部にとってよい状況ではないだろう。本人たちが特別な関係にならないように認識していても、やはり、周りの目というものがある。
 そういう訳だから、大和は、手塚相手に恋愛感情を持つのは抑えてきていた。
 そして無論、手を出すようなことは決してしていない。それはある人物と約束したことだ。

 だと言うのに。
 まさか、問題の手塚から告白されるような事になろうとは。

「……部長がいなくなる前に、これだけ、伝えておきたかったんです……」

 言うべきことを言い切って、力が抜けたのか、放心したような口調で手塚は呟いた。

「そう、ですか……」

 大和はそれしか言えなかった。
 だが、このまま、何も言わずに終わりにするわけにはいかない。
 手塚の告白は惜しいような気もしたが、それでも、あえて、部長としての自分を貫く覚悟を決めた。

「君の気持ちは解りました、手塚君。ですが……」

 逆接のことばに、手塚はびくりと身を硬くした。

 その時だった。近くの木の陰から、がさりと音がした。

「……手塚、やっぱりそうだったんだ」

 慌てて二人はそちらを向いた。木の陰から二人の様子をうかがっていたのは、一年生の不二だった。

「不二……聞いていた……のか……?」
「ふ、不二君……これは」

 大和はますます慌てた。「手塚に手を出さない」ことを約束したのは彼・不二とだった。なぜなら不二は手塚に秘めた思いを抱いているからだ。手塚が大和の魔の手に落ちないように、不二は大和と約束を交わした。代償は不二自身の身体であった。

 というわけで。
 大和にとって、手塚に告白されるほど、まずい状況はないのである。

「あのですね……これは、その……」

 不二に対して言い訳をしようとするが、上手く言葉にならない。そうこうしているうちに、不二は足音も高く二人の下にやってきた。叩かれるか殴られるか蹴られるかどつかれるか投げられるか……とにかく不二からの何らかの攻撃を予想した大和は、思わず身構えた。

 しかし。

「……?」

 予想していた衝撃がなかなか来なかったので、大和はそっと目を開いた。
 そこにあったのは、大和の予想外の光景だった。
 不二は、大和の身体にぎゅっと抱きついてた。
 大きな瞳を少し潤ませて上目遣いになり、目を開けた大和の顔を見上げている。

「部長……いまさら、僕のこと、捨てるんですか?」

 普段の大人びた笑顔とも、開眼した時の冷たい瞳とも異なるその切なげな表情に、大和はますます混乱した。

「え?……な、何を言ってるんですか不二君ー!?」

 不二の言っている意味が良く解らない。いや、正確に言うと、意味はちゃんと解るのだがそれを理性が受け付けないのだ。

「僕の身体、部長無しじゃ駄目にしておいて……」
「だだだだだって、不二君は手塚君のことがー……」
「それは……はじめは、そうだったけど……」
「え、えーと……ま、待ってください、それって、つまり、不二君も……」

 抱きついて離れようとしない不二に身を硬くしながら、大和は思わず赤面した。
 だって不二君は手塚君のことが好きでだから手塚君に懐かれている僕のことはむしろ嫌いでだからそう言う関係であっても身体だけのお付き合いのつもりでお互いそれで了解しあっているはずなのに。
 本気になっちゃったんですか!?
 脳裏にいろいろと言葉は浮かぶが、不二が胸に顔を埋めて頬擦りしてきたので、頭が真っ白になった。

 これってつまり。
 両手に花状態?

「あー……、あの……」

 突然現れた不二と思いがけない展開に硬直したままの大和を、手塚は何事かと呆けて見ていたが、ようやく今何があったのか理解したようだった。

「不二……お前も、そうだったのか」

 その言葉に不二は手塚の方を向くと、自信ありげにふっと笑った。

「悪いね、手塚……。そう言うことなんだよ」
「いや、まだ部長は答えを出していない。部長!」

 手塚に呼ばれて、ようやく大和は我に返った。

「えっあっはい……って、選ぶんですか!?」

 可愛い後輩二人にじっと見つめられて、大和はたじろいだ。

 かたや、子犬のように懐いていて自分を敬愛してくれている後輩。
 かたや、子猫のように気まぐれで普段は決して靡いてくれない後輩。
 男冥利に尽きる状況ではあるけれど、でも。
 選べない。

 大和は思わず頭を抱えて蹲った。
 目を閉じても、迫ってくる二人の声は途絶えることはなかった。

          :*:・。,☆゚'・:*:・。,★,。・:*:・゚'☆,。・:*:

「う〜ん、……僕を巡って争うなんて……いっそのこと、二人とも……」

 テニス部部室にて、机に突っ伏して居眠りしてる大和を、二人が冷たい視線で見下ろしていた。

「まだ誰か残ってると思ったら、こいつは……」

 テニス部副部長・隠岐はすっかり熟睡している様子の部長を見て、吐息交じりに呟いた。それを受けて、一年部員の不二は何も言わず冷たく目を細めた。
 二人はボールの片付け当番だった。体育倉庫にボールを片付けにいって、鍵を教師に返しにいって、そして戻ってきたらまだ部室に灯りがついていた。おそらく部長だと言う予想はついたが、まさか寝ているとは思わなかった。

「おい、大和、起きろよ……」
「あ……そ、そこは止めてください……手塚君……」

 一応肩を揺らして声をかける。だが大和は寝ぼけた声を出すだけで目覚めなかった。つーかどーしてそこで後輩の名前が出てくるんだお前。

「むにゃ……あ、そんなーえー僕が下なんですか……」
「………………」

 とりあえず、どんな夢を見てるのかは考えない事にした。

「あーもう駄目だなこりゃ……こいつほっといていいから、帰っていいぞ不二……」

 起こすのを諦めて後輩の方を向いた隠岐は、ぎょっと目を剥いた。
 普段は大人しい後輩から、いつもの笑顔が消えていた。あるのは吹雪のような視線だけだ。どうもこの二人、ウマが合わないらしいが。その割にはよく一緒にいるような気もするのだが。

「……このまま永遠の眠りにつかせてあげましょうよ。今死んだら幸せそうですし」
「おいおい……」

 絶対零度の口調で言う後輩に、隠岐は一瞬言葉に詰まった。
 だが、目の前で少しうなされながら眠りこけているこの男を見ているとなんだか納得してしまった。このままいなくなってくれたほうが自分の心労も減ると言うものだ。

「いや、そーだな……俺も、そう思った」

 二人分の殺気は何処吹く風で、幸せなのか不幸せなのかよくわからないような顔をして大和は惰眠を貪り続けていた。


 大和の運命やいかに!?

 ……また夢オチかよ、と自分で突っ込みつつ。
 何か前に似た話書いたな……ああ、男不二と女不二で塚取り合う話か……

 とりあえず夢オチです。不二塚の人にはオススメできないと思いつつ……私も書いてて辛かった……

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