誰かが誰かを好きだと言うのは、ある意味ただの事実であって、
わざわざ言葉に出さなきゃ確認できないような、
そんなにあいまいで不確かなものではない。
……たぶん、そのはずなんだけれども。
「てのひら」
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身体を求めた後で愛の言葉を囁くなんて、下らないと思う。
……それじゃただの言い訳じゃないか。
後ろから抜き出す時の、空虚な快感が身を支配する。
重なり合った身体がゆっくりと離れて行く。
「くっ……」
手塚が顎を引いて顔をしかめる。正常位で向き合っていたので顔はよく見えた。意識はもう飛んでいるみたいなのに、体の方が正直だった。
今日は酷く手荒に抱いた。そういう自覚はあった。入れたまま抜かずに何度も腰を突き上げた。
締め付けられても無視して、そのまま腰を離れさせた。
重ねあった掌だけが繋がり続けていた。
結局、一つになりきれなかった絶望感に、自嘲の笑いが込み上げて来る。
「……手塚」
片手で髪をかきあげながら名を呼ぶ。
手塚は答えなかった。ただ息だけが荒い。閉じた瞳の端に薄らと水滴が溜まっていた。顔を近づけてそれを舐めた。
血の味と少し似ていた。
上下している胸の上にゆっくりと横になる。
左の胸の上に耳を当てると、少し早めの心音が聞こえてきた。
重ねた掌の指をぎゅっと握り締める。
「……ごめん」
何か言おうとして、それだけが口から漏れた。
だが、謝罪の言葉も所詮言い訳だと思いなおした。
それでも、それだけしか出てこなかった。
求めれば手塚は嫌がりながらも結局抱かれてくれた。どんなに酷い行為だって最終的に許してくれていた。
こんな馬鹿げた行為を。
結局意味の無いことをやっているのだと言う自覚はある。
求めている自分もそう思うのだから、抱かれている手塚はなおさらそうであるはずなのに。
……いっそ拒んでくれれば、それで諦めもつくのに。
嫌われたくて、無理ばかり求めている。
それなのに、最終的に見捨てられることはなかった。
自分が歪んでいる。それだけのことだ。
手塚はなんだかんだ言いながら人がいいから、付き合ってくれているだけだ。
下らない歪んだ感情に。
「愛とは、愛されたいと願う事」だと誰かが言っていた。
だとしたら、手塚に愛されたいと望んでいない自分のこの感情は愛情なんかじゃなくて。
醜い劣情でしかない。
だから「好き」だなんて言葉は言えない。
「…………ごめんね」
手塚の耳元で、もう一度だけ謝った。
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室内の空調の音で目が覚めた。
起き上がろうとすると、腕の中に妙な感触があった。
オレンジの室内灯と眼鏡のない視界では霞んでいてよく見えない。
手塚は目を細めた。
「……ん」
自分の上で寝ていた不二が不満そうに顔を歪めた。ずっと重なったままの指が握り締められる。
お互いに服は着ていないままだった。
起こしたか、と思ったが、そうではないらしい。
振動を与えないように気をつけながら、ゆっくりと開いている右手を動かして頭に近づけた。
おそるおそる髪を指に絡める。
柔らかく透き通った感触が指の間をすり抜けて行く。
そうやって髪を触られるのが気持ちいいのか、不二は少し表情を和らげた。
気持ちよさそうな笑みに自分も吊られた。
(……こうやって普段からおとなしくしていると、いいのだがな)
だがそこで、何が「いい」のか、ふと疑問がよぎった。
何だと言うのだろうか。
もともと、自分たちの関係は、何か大きく間違っている。
食い違っている、と言うべきか。
(……そうか)
不二はほとんど、愛を告げる言葉を口にしていない。
自分もそうだ。
それなのに、先に体の関係だけがある。
まるでお互い、ただの性欲の捌け口のようだった。
(………………)
さすがにそう思うと、自分でも嫌な気分になった。
だが、求められると、どうしても拒む事は出来なかった。
こんな行為、馬鹿げているとは思いながら。
……愛情無しに、こんなことができるとは思えない。
少なくとも、手塚は許せないと思っている。
ならば、自分には、愛情があるのだろうか。
……だが、もしも愛情があるのだととしても。
それを告げることを不二は望んでいるのだろうか。
望んでいないのではないのか。
自分がそれを口にすることは、傷付けるだけではないのか。
心の何処かでそう思っている自分がいる。
だから、そんな言葉は言えない。
規則的な寝息に合わせて、髪を撫でる。
てのひらを通して熱が伝わってくる。
その指をそっと握り返した。
新年一作目はバカップルです。バカですこいつら。いや馬鹿なのは私なのか……すみません……。
Mr.Children「掌」。今更ながらすごいはまってます……
かなり個人的に理想的な不二塚なんですが……やばいぐらい……。
完全にその影響浮けまくりな感じです……。
あと「くるみ」はビデオクリップが死ぬほど泣けます。
荒んでる時に見ると癒されます。
あの中年が大和に見え……(そりゃ眼鏡だけだ)
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