■お昼休み、あるいは大和部長殺人事件

菊丸「にゃー!!! 大変だー!!!!」
(どたばたと走り回っている菊丸。乾、海堂コンビとすれ違う←乾海をさり気にアピール)

乾「……どうしたんだ。菊丸。そんな大声を出して」
海堂「……ちわッス、菊丸先輩……」
菊丸「あああっ! 乾発見!! ついでに海堂も!! ちょっと来て!!!!」
(菊丸、急ストップをかけると、乾の服の袖を引っ張って何処かへ連れて行こうとする)

乾「ちょっと待て、俺はこれから、海堂と次のダブルスの打ち合わせをだな……」
菊丸「そんなの後でいーから!! 大変なんだってば!!」
(乾の言葉も聞かずに動く菊丸。諦め顔の乾、海堂をうかがう)

海堂「……先輩、なんかマジに大変そーッスよ? 行った方が……」
乾「……うー……海堂がそう言うならまあ……」
菊丸「お、サンキュな海堂!! お前も来い!!」
(しぶしぶ、菊丸に付いて行く二人)

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菊丸「ここなんだけど……」
(やってきたのは『教えて! 大和部長!!』のコーナー。乾と海堂、辺りを見回す)

乾「ここは、大和元部長の質問コーナーだな……だがここに何があるんだ?」
(海堂は大和を知らないので、とりあえず黙っている)

菊丸「実は……俺、さっき、大和元部長に『俺も出たい』って直談版しに来たんだ……」
乾「そう言えば、菊丸はまだ出番がなかったな」
菊丸「だってサイト傾向的に仕方ないけどさ!! やっぱ出たいじゃん!!
いーよな、乾は……しかもコスプレまでしてるくせにー……」
乾「……したいのか? コスプレ……俺はただの白衣だったが……」
菊丸「したいー!! 乾や不二ばっかりずるいー!! つーか出番欲しいー!!!」
乾「……お前はまだ恵まれてる方だぞ。大石を見てみろ」
菊丸「……むー……」
(何時の間にか世間話になってる二人)

海堂「あの、菊丸先輩……で、いったい何があったんスか?」
(恐々話を本題に戻そうとする海堂)

菊丸「にょ!? そーだ、そーだよ!! で、ここに来た訳なんだけど、そうしたら……」
(と、菊丸、部屋の真中を指差す。その指の動きに合わせて視線を動かす二人。)

菊丸「死体が……」
(菊丸の指の先には、うつ伏せで血の海に倒れている人間の姿が……)

乾&海堂「!!!!!」
(今まで死体に気付かなかった二人、ここにきてようやく驚く)

菊丸「どーしよー!? あれ、大和元部長だよねー!? 俺第一発見者だよー!!
なんて答えればいいのかな……それともやっぱり第一発見者は疑われるのがセオリーかにゃー!?」
(だいぶ混乱している菊丸)

乾「……い、いや、落ち着け、菊丸……とにかく、一度、被害者を確認してみよう」
(死体に近づく三人)

菊丸「……サングラスにヘアバンド、やっぱり、間違いなく、大和元部長だにゃー……」
乾「ああ……いったいどうしてこんな事に……いや、大体予想はつくが……」
(なんとなく、溜息が出る二人)

海堂「……乾先輩、ここ……ダイイングメッセージが……」
(海堂、死体の指先に何か血文字が書かれていることに気付く)

乾「なんだって……?」
菊丸「ダイニングメッセージってあれだろ、『名探偵コ●ン』とかで時々あるやつ……」
乾「……『ダイイングメッセージ』だ、菊丸……死に際のメッセージだな……」
(菊丸と乾、海堂の指差した先を覗き込む)

乾「…………『ヒグマ』………………?」
菊丸「……『ヒグマ』……だねえ……」
海堂「……どこからどう見ても『ヒグマ』ッス……」
(三人とも、脳裏に同じ人物を連想する)

乾「……いつかはやる、とは思ってたが……まさか、今日だったとはな……」
菊丸「だよね、いつ起きてもおかしくなかったよね……ご臨終様、元部長……」
(しみじみと納得する二人)

海堂「…………? あの、どうして……不二先輩が……この人を?」
乾「ああ、海堂は知らないよな……ここに倒れているのは大和という人でな。
俺たちが一年生の時に、青学テニス部の部長だった人だ」
(事情を一人理解していない海堂に説明を始める乾)

海堂「この人が……二年前の部長、なんですか?」
(海堂、信じられないといった口調で乾に尋ねる)

乾「そう。手塚がおそらく世界で一番尊敬している人物だ。
いや……尊敬、というか、敬愛、というか、むしろそれ以上の何かというか……」
菊丸「……だから、不二は大和元部長のこと、本気で嫌ってたんだ……もういっそなんか、殺してしまいそうなぐらいに……」
(思わず、声を潜める二人。海堂はやや首を傾げて)

海堂「……どーして、手塚部長が尊敬している人を、不二先輩が嫌うんスか?」
(真顔で質問する海堂。一瞬、お互いの目を合わせる乾と菊丸)

菊丸「……海堂……ひょっとして、不二の好きな人に気付いてない?」
海堂「…………?」
(目をぱちくりとする海堂に、肩を落とす菊丸)

乾「……海堂は……そういうことに関しては、手塚並に鈍感だからな……」
海堂「…………。悪かったスね」
(乾がぽんと肩を叩くが、それを片手で跳ね除ける海堂)

菊丸「と……とにかく、これ、どーしよう……犯人も解ったんだけどさ……」
乾「しかし……これはまずいかもしれないぞ、菊丸」
菊丸「にゃ?」
乾「……あの『天才』不二が、殺人の証拠を残しておくようなマネをするだろうか……
このままだと、このメッセージを見た俺たちまで消される可能性が……」
菊丸&海堂「……!!」
(乾の言葉に、青ざめる二人)

不二「やあ、ここで何をしてるんだい?」
乾&菊丸&海堂「………………!!!!!!!!!!!!」
(神出鬼没に不二登場。声にならない悲鳴をあげる三人)

不二「おや……この血の海の中にいるのは大和元部長だね。死んじゃってるのかな? 可哀想に……」
(笑顔で淡々と棒読みする不二)

菊丸「………………(自分でやっといて、さすがだにゃー不二……)」
不二「エージ何か言った?」
菊丸「ううん!? 全然!? もうひっとことも!?」
(地獄耳の不二の質問に、頭をぶんぶん横に振って答える菊丸。何も言えない乾と海堂)

不二「ん? ここにダイイングメッセージがあるよ? 『ヒグマ』?
……ああ、そうか、野良ヒグマに襲われたんだね、きっと……」
乾「…………(いくらなんでもそれはきついんぞ不二……)」
不二「そう思うよね? 皆も? これは野良ヒグマに襲われると言う悲しい事故だったんだよね?」
(開眼モードで睨みつけながら質問する不二に、思わず首を縦に振る三人)

不二「手塚が帰ってきてこのことを聞いたら、きっと悲しむねえ……。
でも大丈夫! 彼の志は僕たち青学レギュラー全員の心に残っているから……
そう……大和元部長は、永遠に、みんなの心の中で生き延びるのさ……」
(胸に手を当てて宝塚ちっくに仰々しく台詞を言う不二に、三人は何も言えない)

不二「星になって空の上から見守っていてください、大和元部長……
そして……手塚は必ず僕が幸せにします……」

菊丸「…………(さりげに何か凄い事を言ってるにゃ……)」
乾「…………(死人に口無し、とはよく言ったものだな……)」
(とりあえず突っ込み慣れていない海堂は黙秘を貫く)

不二「さて……当面の課題は、ここの質問コーナー後二回分、誰が引き継ぐか、だけど……
そうだね、一応正規アシスタント(年齢違うけど)だった僕が引き継ぐってことでいいかな?」

乾「…………(それが狙いだったのか……)」
菊丸「…………(ここなら、手塚の召還自由自在だもんにゃー……年齢も選り取りみどりだし……)」
乾「…………(では次回から、裏行きを考えた方がよさそうだな……)」

不二「……二人とも何か小声で会話してるみたいだけど、僕が引き継ぐってことで異存ない?」
乾&菊丸「もちろん!」
(乾と菊丸の会話に割り込む不二。声を合わせて答える二人)

不二「じゃあそういう事で、五限目は、僕が回答を……ッ!?」
(不二の身体が突然下に引きずられる。思わずバランスを崩すが、何とか持ちこたえる)

乾&菊丸&海堂「…………!!??」
(突然の不二の異変に、驚く三人)

大和「……聞きましたよ……不二君……」
(血の海から這いずりあがるように起き上がった大和が、不二の足を掴んでいる)
不二&乾&菊丸「…………元部長!!!???」

乾「……生きて、らしたんですか……」
大和「ふふふ……ちょっと出血多量で意識失った挙句、
夢の中じゃ死んだ祖母が川の向こうで手を振ってましたけどね……
『まだこっちにきちゃいけませんよ祐大……』って……
おかげで帰ってこれました……ありがとう、おばあちゃん……」
(血まみれの顔のまま、何処か遠くを見ながら亡き祖母に感謝する大和)

菊丸「うわー……さっすが大和元部長……生命力がはんぱじゃないにゃ……」
不二「…………ちっ……(確実にしとめたと思ったのに……このゴキブリ並が……)」
(両手を組んで大和を見つめる菊丸と、足を掴んだままの大和を見下しながら開眼モードの不二)

大和「ところで、不二君……さきほどの台詞で、君のやる気は痛いほど伝わりました……
だから、五限目はちゃんと手伝ってくれるんですよねえ……?」
不二「!! …………くッ…………」
(しまった、と言う表情でぐっと拳を握る)

大和「さっきそう言いましたよねえ……? ちゃんと録音してあるんですよ、この部屋……
あれだけ引き継ぐ決意してたんだから、当然、アシスタントぐらいやってくれますよねえ……?
ひょっとして、嘘だって言うんですか? 手塚君はきっと嘘吐きは嫌いですよ……?」
(血の海から何とか立ち上がる大和。不二の方をがしっと掴む)

不二「まさか……このために、死んだふりを……!?」
大和「クマ相手には死んだふりをするのがお約束ですから……さあ、そろそろお昼休みも終わりです。
次は家庭科の時間なので準備に行きましょう……服も血で汚れちゃった事ですし……」
不二「……!!!」
(大和に騙されたショックで動けない不二、大和に引きずられて退場)

菊丸「あー大和元部長ー!! 次出たい、俺も出して出してー!!!」
大和「了解しました菊丸君ー!!!」
菊丸「やったー!!!」
(菊丸に手を振りながら、不二を伴って大和退場)

海堂「……乾先輩。あの元部長、いったい……」
乾「……あの不二に勝てる、唯一絶対の存在だ……不二の人災を逃れるために、覚えといて損はないぞ」
海堂「(ゴクリと息を呑みながら)はい……」


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