■六限目
不二「さーて、現在、現実時間にして10月1日、9月限定企画のはずがやっぱり長引いてます。
さっさと終わらすために『教えて! 大和部長!!』六限目、片付けてしまいましょう。
ちなみに、今回もアシスタントは不二でお送りします」
(不二(三年)、白衣姿で登場)
大和「……不二君、今回は妙に機嫌良さそうですねえ……」
(同じく白衣姿の大和、登場)
不二「貴方との腐れ縁もこれで解消ですからね。さっぱりします。
それに、10月の最初は大事なイベントが控えてるし……」
大和「……イベント? あー……手塚君の……!」
(大和、何かに思い当たったかのように手をぽんと叩く)
不二「そういうわけなんで、僕としては貴方の企画なんかとっとと終わらせて
手塚との目くるめく愛の営みの日々を過ごしたいところなんですが、
何時の間にか10月になっちゃってたり、管理人も大学始まっちゃったり、
卒論の資料が全然集まってないのに現実逃避のように某ルーキー魔王の小説にはまってたり……
どうしてくれるんですか!? これで手塚の誕生日企画が間に合わなかったら!!??」
(不二、大和の胸元を掴みかかって逆ギレする)
大和「ちょ、ちょっと待ってください〜
それ、半分以上僕関係ない上に、一部管理人の私情が混じってる気がするんですが……」
不二「問答無用です!!
とにかく、手塚の誕生日(と僕の下半身)のためにも、さっさと始めてください!!」
大和「解りました……えー、それでは、お名前、化学苦手さんからの質問ですが……
う、名前で、何か嫌な予感が……」
Q.「塩酸と酢酸の危険度を教えて下さい、大和部長!!」
大和「……えーと……化学ですねえ、そうですねえ……」
(視線を宙に泳がせる大和)
大和「え………………と、ごめんなさい!!!」
(大和、質問から目を背けてダッシュで逃げる)
不二「……あっ!!」
:*:・。,☆゚'・:*:・。,★,。・:*:・゚'☆,。・:*:しばらくお待ち下さい:*:・。,☆゚'・:*:・。,★,。・:*:・゚'☆,。・:*:
不二「……ふう」
(不二、額の汗を拭う。逃げた大和を捕まえ、荒縄でグルグル巻きにして縛って戻ってきたところ)
大和「ううう……」
(大和、画面から目を背けて暗い顔。芋虫のように地面に転がされている)
不二「で……何担当コーナー捨てて逃げ出してるんですか貴方は!! 責任感ってものはないんですか!?」
大和「か……勘弁してください……
ぶっちゃけ、僕文系なんで化学はちょっと……(捏造設定)」
(泣き言を言って、芋虫状態のまま怒る不二に縋りつく大和)
不二「……だからって逃げてどーするんですか。最後の質問なのに」
大和「でも管理人もバリバリ文系人間なんですよ……化学は高一で捨て、物理は中学で捨てたって……
公式がさっぱり利用できなかったんですよ!! モルの概念がさっぱり解らなかったんですよ!!
イオン化傾向とか有機化学とかベンゼン環とか言われたってちんぷんかんぷんなんですよ!!!
だから物質名なんかの丸暗記できる問題でなんとか赤点ギリギリを免れてたんです!!??
恐ろしい……あれは鬼門ですよ……ぶるぶる……」
(化学嫌いを熱烈にアピールする大和)
不二「……仕方ありませんね。こうなったら化学の得意な人間を召還しましょう」
(妥協してやる不二)
不二「うちのレギュラーで化学が得意科目なのは……越前なんだけど……
あと乾もなんだかんだ言って得意そうだよね」
(という訳で、越前と乾(白衣姿)召喚)
越前「うぃーッス。……でも俺、所詮中一ッスよ。塩酸は触っちゃ危険ってぐらいしか」
不二「……そうだよね。中一でやる化学って状態変化とかそれぐらいだし……」
乾「……俺は物理の方が好きなんだが。まあ、解る範囲でお答えしよう」
不二「前から思ってたんだけど、ファンブックの得意科目って、あれ、高校生の科目だよね……
中学は理科と社会、あんなに詳しく分かれてないんじゃ……
まあ、ここでいまさら突っ込んだって仕方ないけどね」
(不二、やや溜息)
不二「で、そこに転がってる不審人物が今回は役に立たないから、僕たちだけで片付けようか。
僕の持ってる『毒薬劇物大事典』も役に立ちそうだし」
一同「………………」
(不二が何処からか取り出した謎の事典に、一同、無言になる)
不二「じゃ、塩酸と酢酸について、だね。あ、役立たずは、そこで休んでいてくださいね」
(不二、笑顔で大和を見下ろす)
大和「……はーい……。ご協力、痛み入ります……」
(何も言い返せないので、芋虫状態のまま素直に返事しておく大和)
不二「そうだ、最終回ですし、この質問だとあなた答えられないから台詞もないだろうし、
先に聞いときますけど、何かいいたいことあります?」
大和「……できれば、こんな芋虫みたいなんじゃなくて、もっと色っぽい縛り方を……」
不二「…………」
大和「そーですねえ……亀甲縛りとか……」
不二「さて、始めようか乾、越前」
(大和は無視して、答えに移る不二)
越前「……了解ッス。
じゃ、塩酸から。さっきも言ったけど、塩化水素の水溶液が塩酸なわけ。
塩化水素はハロゲン化水素の一つ。ハロゲンっていうのは周期表の17族の元素群。
手元に化学や理科の教科書ある人は見てみれば? 縦の右から二列目が17族だから。
フッ素・塩素・臭素・ヨウ素なんかのこと」
乾「ちなみに、ハロゲンとはギリシア語で「塩を作る」という言葉に由来しているそうだ。
ハロゲン化水素は無色、刺激臭のある有毒な気体になる。塩化水素は分子式HCl、分子量36.47だ。
水溶液である塩酸は強酸性を示し、水素よりもイオン化傾向の大きい金属と反応して水素を発生する」
不二「で、お待ちかね。肝心の危険性だけど。
塩化水素は腐食性があるんだ。湿気があると金属と勝手に反応して水素を生じるんだね。
これは塩酸でも同じ。放置すると気化して、腐食性の混合気体が発生するんだ。
人体への影響は、大量に吸入すると喉頭部が痙攣して肺水腫ができるし、
皮膚にかかると、その部分が腐敗・融解しちゃって壊死しちゃうからね。
目に入ったら当然視力障害の上、失明も覚悟しておいたほうがいいよ。
もしもかかっちゃったら、とりあえず流水ですぐに洗い流そうね。
とにかく、完全密閉の上、取り扱い厳重注意だよ。火気・直射日光を避けて、冷所に保存しておいてね」
(ホワイトボードを準備し、そこなかとなく目をキラキラさせながら毒性について説明する不二)
越前「……不二先輩、なんでそんなに嬉しそうなんスか」
不二「え? そう? 劇物の取り扱いとかってワクワクしない? スリルがあって」
乾「不二が言うと、洒落に聞こえないところが嫌だな……」
越前「……(……乾先輩が薬品の話するのも洒落になってないッス)……」
(後輩の苦悩には気付かず、劇物トークを繰り広げる乾と不二)
越前「……とにかく。次は酢酸だね。酢酸は有機化合物でカルボン酸の一つ。
カルボン酸っていうのは、分子式にカルボキシル基(―COOH)を持つ有機酸の総称。
……つーか酢酸って、ふつーに食酢に含まれてるやつっすよね、乾先輩」
乾「そう。ただし、高濃度だと毒になる。
無色で刺激性のある、特異な酢臭の液体だ。分子式はCH3COOH、分子量60.06。
純度の高いものは冬になると氷状に結晶化する。これを氷酢酸、と言う」
不二「それで、危険性は……
多くの金属を腐食するから、アルミニウムやステンレス、ガラスの容器に貯蔵してね。
合成樹脂やゴムなんかも、長時間接触してると腐食しちゃうから。
あと、引火点以上で着火すると、燃焼する危険性もあるしね。
だから火気厳禁だし、密栓して換気の良いところで保管しようね。
当然、貯蔵庫は耐火構造で不燃材料で作らなきゃだめだし、コンクリートも腐食されちゃうから要注意だよ。
人体への影響は、吸い込むとやっぱり鼻・のど・気管支・肺を刺激するし、
多量だと肺水腫が出来たり、気管支肺炎を起こしたりするから。
80%以上の濃厚な液だと、皮膚にかかると薬傷になってただれちゃうからね。目に入っても眼や粘膜を刺激するよ。
誤飲すると、吐血・下痢・ショック・溶血作用……などの症状が出るよ。
誤飲の緊急処置としては、ミルクや卵白を掻き混ぜた水を飲ませるのがいいみたい。
あと、慢性的になっちゃうと、皮膚が黒色化したり結膜炎・気管支炎になったり
そのたいろいろな症状があらわれるからね」
(ホワイトボードを裏返して説明する不二。やはり妙に楽しげ)
大和「………………皆さん、さすがですねえ……」
(一人取り残されていた大和、未だに芋虫状態でポツリと呟く)
不二「……誰があんたの尻拭いしてると思ってるんですか。ったく。
……せっかく塩酸も酢酸も用意してるんだから、いっそのこと人体実験してみようか」
乾「……さすがに、本気でそれは問題だと思うぞ、不二。取り返しがつかないだろう。
電気椅子ならばまだ取り返しのつく分、冗談ですむが……」
大和「……あのー、それも冗談じゃすみませんよ多分……つーか、二限目のあれ、やっぱり電気椅子だったんじゃ……」
(大和のさりげない突っ込みにも気付かず、劇物トークに花を咲かせる乾と不二)
越前「……いい加減、まとめないッスか」
(正論。疲れてきたらしい)
不二「あ、そうだね。
そういう訳で、塩酸と酢酸の危険度でした。こんな感じでいいのかな?
危険『度』、ってことは、何か基準みたいなものでもあるのかな……そこまではちょっと解らなかったんだけど。
えー、なお、ここに書かれている事は一応できる限りちゃんと調べたものですが、
いかんせん管理人は高一以来化学と言うものに手をつけずに生きてきた人間ですので
理系の皆さん、間違ってたら遠慮なく突っ込んでください」
乾「……また、万が一だと思うが、もしも学校の課題か何かでこのような質問をして下さったのならば、
答えまでに日があいてしまって申し訳なかった。それと、もう一度自分で調べなおす事をお勧めする。
図書館の化学関連の本棚で、薬品の取り扱いについての本があれば載っているはずだ」
A.「大変危険です。直に触れないように気をつけてください」
不二「さて、本日の授業はここまでです。長時間お付き合い、どうもありがとうございました。
……なんか最終的に、図書館のレファレンスコーナーみたいになってたけど……」
乾「管理人は司書免許取得予定だからレファレンスの演習は行っているはずだ。いい実践になっただろう」
越前「……まさか、こんなことで大学の演習が役立つ羽目になるとは思っていなかっただろうけどね」
不二「……そうだろうね。
とにかく、ここで一端お別れです。機会と管理人の時間とやる気があれば、またお会いしましょう〜」
(にこやかに手を振る乾と不二。横で仏頂面の越前。流れるエンディングテーマ……)
不二「それじゃ、僕はこれから、手塚の誕生日の準備があるから!!
お先に〜!!」
(意欲満々の不二。イキイキとしながら帰っていく)
乾「……じゃ、授業が終わったって事は俺達は部活だな」
越前「そーッスね。……つーか、不二先輩もそうなんじゃ……」
乾「越前。……今の不二を止められるか?」
越前「…………」
(乾と越前も部屋から出て行く)
大和「あのー……皆さん、僕の存在、忘れてませんか……?」
はっこれって放置プレイですか!? 放置プレイなんですか不二くーん……!!」
(暗くなっていく部屋。小さくなっていくエンディングテーマ。幕)