BOY MEETS GIRL

 秋も深まったある日、手塚はとても疲れていた。

 文化祭までもうあと数日。手塚はその準備で夜遅くまで学校に残る日が続いていた。生徒会長となって初めての大仕事なので手塚自身、気合の入れようも違う。休み時間だけでなく家でも仕事に追われる毎日だった。生徒会の仕事だけでなく、クラス別の展示の準備もある。テニス部の方にはほとんど顔を出せず大石に任せっきりになっていたが、部長としてその日の練習状況の確認と次の日の練習内容の指示だけは欠かさなかった。

 ……そんな訳で。
 夕刻、帰宅間際に寄ったテニス部部室でついうたた寝をしてしまうぐらいに、手塚は疲れていたのだ。

「手塚? こんなとこで寝てると風邪ひくよ?」
 聞きなれた声を耳にして、手塚は眠りから目を醒ました。
「……む……不二か……」
 ぼやけた目で自分を覗き込んでいる相手の顔を確認する。色素の薄い髪と瞳。そこにいたのは、紛れもなく不二だった。
 だが、どこか違和感がある。
 ……最初、手塚はそれに気がつかなかったのだが。
「もう七時過ぎちゃったよ、一緒に帰ろ」
「……ああ、そんな時間か……」
 腕時計を見ると、針は間違い無く午後七時過ぎを指していた。ここに来たのが六時半だったから、半時間ほど寝てしまったらしい。不二に声をかけられなかったらこのまま寝続けていただろう。
「すまない」
「こんなところで寝てるからびっくりしたよ。……君、ちょっと疲れすぎてるんじゃないの? 声だって枯れてるみたいだし」
「そんな事は……」
 不二が急に顔を寄せてきて、手塚の額に手を当てた。茶色の髪がふわりと揺れて、その香りが鼻をくすぐる。突然の行為に手塚はうろたえた。
「な……」
「熱は無いみたいだね」
「は、離れろ」
 動揺を顔に出さないように必死になりながら手塚は不二の身体を遠ざけた。鼓動がやけに早いのを自覚した。
 髪の香りのせいだ。いつもとは違う甘い香りだった。
「あれ? でも顔は赤いね……?」
 不二はくす、と笑った。手塚の動揺などお見通しらしい。居た堪れなくなった手塚はことさら勢いをつけて立ち上がり鞄を肩にかけた。そそくさと部室の扉を開けると外に出た。
「……帰るぞ」
「あ、待ってよ手塚。起こしてあげたんだから……」
 部室のドアに鍵をかけ、とっとと歩き出した手塚を不二は小走りで追ってくる。手塚はその姿を肩越しに見た。胸のリボンがひらひらと揺れている。ひざ上20pのスカートから除く腿がこの時期には寒そうだな、と考えた。首には分厚いマフラーを巻いているくせに、足元はそれに比べてやけに薄着だった。
 そこで、先ほどの違和感がふたたび蘇って来た。
「…………ん?」
「もう、そんなに怒らないでよ。待っててあげたのに」
 不二は手塚に並ぶと、僅かに上気した顔で手塚を見上げた。色素の薄い髪や瞳も整った顔も小柄な体つきも間違いなく自分の知っている不二だが。
「そんなに早く歩かないでよ……」

 セーラー服にスカート。
 青春学園女子生徒用制服、であるはずの。

 先ほどまで感じていた違和感が急に形を成した。

「……!! お前!! なんという格好をしてるんだ!!」
「……え?」
 不二は意味が解らない、といった顔で答えた。だが意味が解らないのはこっちだと手塚は思った。
「なぜ女子の制服など着てるんだ!? ちゃんと自分の制服を着ろ!!」
「……君の言ってることよく解んないんだけど手塚」
 ますます訝しげな顔を不二はした。どうもいつもの冗談ではないらしい、と考えた手塚の脳裏にふと、ある仮定が浮かんだ。
「……そうか、文化祭の出し物かなんかで女装をするんだな。だがだからと言って登下校時まで女子制服を着る必要はなかろう。待っててやるから制服に着替えて来い」
 不二は哀れむような瞳をして、手を伸ばして手塚の頭を撫でた。
「ねえ……手塚。君、ちょっと疲労が脳に来たんじゃない? おかしくなってるみたいだし、ちゃんと休んだ方がいいよ……」
「おかしいのはお前だろう……女装なんかして……」
 どうも噛み合わない会話に本当に疲れてきた手塚は、力なく答えた。
 だがその答えに不二は切れた。
「だからどーして女の僕が女装しなくちゃならないのさ!? どーして僕が男みたいな言い方するのさ!?」
「……なっ……」
 不二が言った言葉を、手塚の脳は一瞬理解できなかった。
「あ、ひょっとして、僕が自分のこと『僕』って呼ぶ事に対する嫌味? 手塚ずっと嫌がってたもんね、女なら女らしく話せって」
「な……何を言ってるんだ、お前……」
  言っている事自体は理解できたとしても、理性がそれを受け付けなかった。

 ……女、だって?
 いったい誰が?

「い、いい加減に……」
「いい加減にして欲しいのはこっちだってば。もー、帰ってゆーっくり休んだ方がいいよ」
 そう言うと不二は、開いた口がふさがらない状態の手塚の腕にしがみ付いて引っ張るようにして歩き出した。その際、手塚は不二の胸に押し付けられた二の腕に何か柔らかい感触を感じた。……まさか。
 腕を振りほどくと、思わずリボンの揺れる不二の胸に手をやった。
 そこには、間違い無く中学生らしい自然な膨らみがあった。
「……ま、さか……」
 思わず手塚は硬直した。
「本当に、女なのか……?」
 まじまじと手を当てたまま胸を凝視している手塚を、不二は冷たい視線で見つめた。
「……手塚、疲れすぎて溜まってるの? 校内で胸揉むなんて」
 自分のやっている行為の意味を自覚した手塚は、慌てて不二の胸から手を外した。不二は冷ややかな声をしていたが、わずかに頬が赤くなっている。その表情を見て手塚は何か胸に感じるものがあった。
「屋外プレイにはちょっとキツイ季節だけど?」
「……す、すまん」
 手塚は素直に自分の非を認めた。わずかに顔を赤らめながら頭を下げる。
「なんなら今からホテルでも行く? 久しぶりに」
 不二は再度手塚の腕をとった。混乱しきってる手塚を引きずって校門へ向かう。再び今まで感じた事のない柔らかい感触が腕に当たるって手塚はますますうろたえた。女性の扱いなど経験がない。手塚にとって不二はただでさえ扱いづらい人種なのに。
「僕はかまわないよ。今日は安全日だし」
「ち、違う……そういう訳じゃ……」
 しどろもどろになりながら手塚は答えた。今の不二はどういうわけかわからないが女性だ。そして自分は男のままだ。男女でホテルに行くということは、つまり。
 ……つまり。
 なんだか眩暈がしてきた。
「あ、今日うち母さんも姉さんもいないし、そっちの方がいいかな」
「ちょ、ちょっと待て。不二、こういうことはまだ……」
 足を止める。このまま引きずられてなし崩しになりそうだったところを必死の抵抗で堪える。
 動かなくなった手塚を不二は訝しげに見た。
「今更なに言ってるのさ」
「い……いまさら!?」
 何げなく不二が言った言葉に手塚は目を剥いた。
「……それは……どういう意味だ……」
「意味も何も……」
 不二は呆れたように手塚を見た。やがてその視線がわずかに寂しげなものにかわる。
「まさか……覚えてないの?」
「い、いや……」
 当然まったく記憶にないのだが、そう正直に言う事は躊躇われた。真剣な不二の顔を見ていると言えなくなった。
 視線を合わせている事が辛くて、思わず目を逸らすと、その先に見慣れた人物がいた。
 助けを求めるように名前を呼ぶ。
「お、大石……!」
「あれ? 手塚……と不二」
 名前を呼ばれて二人に気づいた大石は、小走りに駆け寄ってきた。こちらはいつもの学ランだ。手塚は内心で胸をなでおろした。
「どうしたんだ、こんな遅くまで」
 大石は普段と変わらないさわやかさで語りかけてきた。不二の異変には気づいていないらしい。
 ……いや。
 不二の事は、大石には「異変」と認識されないのかもしれない。
「部室で寝ちゃってたんだ、手塚。僕が起こすまでぐっすりと」
 手塚が答えるまでに不二がそう返答した。大石はそれを聞いて少し笑った。やはり不二のセーラー服姿には何の関心も払っていない。
「手塚でもそんなことするんだな。大丈夫か? だいぶ疲れているみたいだけど」
「……大石、少し、聞きたい事があるんだが」
 不二の腕を振り払うと、手塚は大石の肩を掴んでその場から少し移動した。不二に声が聞こえない辺りまで。
「な、なんだ……どうしたんだ、手塚」
 妙に真剣そうな手塚に吊られるように、大石も声を小さくした。
「不二についてなんだが……何かおかしいと思わないのか?」
 後ろで不満そうな顔を浮かべている不二を、視線で示した。
「え……いや、いつも通りじゃないのか……?」
 大石は不思議そうに答えた。
 やはり、そうらしい。不二はどういうわけか今は女性となってしまっているらしい。そして手塚以外はその事を不思議だとは思っていないようだ。
 諦めきったように手塚は下を向いてため息をついた。
 こうなったら、現実として受け入れるしかない。手塚は決意を固めた。
 そんな手塚を見ながら、大石は少し照れながら言った。
「ひょっとして、惚気なのか?」
「……?」
「相変わらず可愛らしいしけなげだけどな、不二。今日だって待っててくれたんだろう?」
「!?」
 その言葉にゆっくりと顔を上げて大石の顔を覗き込んだ。大石は困ったような笑い顔を浮かべてこういった。
「まったく羨ましいよ、あんな彼女がいてさ。あんまり見せ付けないでくれよ」
「……!!??」
「……あれ? どうしたんだ手塚?」
 手塚は口を半開きにしたまま、動きを止めていた。
 想像以上のことが起こりすぎて、手塚の理解の範疇を超えていたのだ。

 冷静になって考えてみよう、と手塚は自分に言い聞かせた。
 どうしてこうなってしまったのか、原因はとにかくとして、今の不二は女性なのだ。顔も体格も性格も何もかもが同じだが、ただ性別だけが違う。それについて疑問を抱いているのはどうも手塚だけらしい。他の人間はまったく気にしてないようだった。
 今更それについて悩んでもどうしようもない。それは現実として受け止めるしかない。

 ……問題は
 不二と自分が付き合っているらしい、という事だ。

 大石からなんとか聞きだしたところ、不二は女子テニス部の部長だと言う。女テニではNO.1の強さで全国レベルの選手だと。手塚とは数ヶ月前から付き合い始めたらしい。今では学校一の名物カップルだと言われているそうだ。
 そこまで整理してみて、手塚の頬が赤くなった。意味もなく眼鏡をかけなおす。
 付き合ってる? 自分と不二が?
 自分に記憶は欠片もないのだが、そういうことになっているらしい。付き合っているにしろいないにしろ、不二が自分のことを好いていてくれるのは間違いない。
 なぜなら自分の知っている男の不二もそうだったからだ。カタブツの手塚としては男同士で恋愛など想像を越えた事象なので不二がいくら迫ってきても相手にしなかったが、この状態では話は別だ。

 それに。
 そうでなければ、女子が男子に家に泊まりに来いなどとは言い出さないだろう。

 困った事になってしまった。
 不二の部屋のベッドに腰掛けながら、手塚はそう考えた。

 部屋の中は手塚の知っている不二の部屋と大差なかった。机の上のパソコンも窓際のサボテンも見た覚えのあるものばかりだ。女性の部屋だとすればシンプルな部類に入るのだろう。比較対象を知らないから比べようもないが。
 部屋の主は汗かいたから、といってシャワーを浴びに行った。二人しかいない家の中はしんと静まり返っている。耳をすませば階下から水音も聞こえてくる。
 手塚は頭を抱えてうなりこんだ。
 この後の状況は大体予想がつく。
 ……つくから困っている。
 大石と別れた後、仲間はずれにされて機嫌を損ねた不二を宥めるため、手塚は不二の言う事を聞かなくてはならなくなった。それがこの結果だった。

「お先、手塚」
 湯気を立てながら不二が部屋に戻ってきた。首に回したタオルでわずかに上気した顔を覆っている。ユニセックスのスウェットに全身を包んでいるが、裾から除く足や腕はいつも見ているものよりも細く感じられた。つい胸に目をやってしまうが、そこに間違いなく布の凹凸があることを目にして顔をそむけた。
 ボディーソープの匂いがここまで届いてくる。種類はわからないが甘い香りが鼻腔をくすぐる。
 言い知れない何かを感じて手塚は思わず腰を浮かした。後ずさるようにして不二から離れようとする。
「……どうしたの?」
 不二は唇に柔らかな笑みを浮かべた。額を覆う濡れた髪をかきあげるしぐさを見て、手塚は動きを止めた。ごくりと生唾を飲む。鼓動が早くなるのが自分でも解る。
 先ほどから感じていた胸のしこりが大きくなる。
 視線を合わせたまま、不二は手塚の隣に腰掛けた。
「緊張してる?」
 不二は手を手塚の太ももに乗せた。そのままゆっくりと中央へと動かしてくる。手塚は身を強張らせた。
「ま、待て……そういうつもりじゃ……」
 だが不二は指を止めなかった。手塚の中心に達した指は、学生服の上からそっとそれをなぞった。
「……そう?」
 潤んだ瞳で上目遣いに見つめられて、手塚はそれ以上言葉を紡げなかった。その間にも不二は指の動きを止める事にはなかった。いつの間にかズボンのチャックを下ろして中に入り込んでいる。これ以上先に進まれる事を恐れて、手塚は寄りかかってくる不二の身体をどけようとしたが、女性相手だという思いのせいで力加減が上手くいかない。あまり強く跳ね除けると傷つけてしまうかもしれないと思うと腕に力が入れられない。
 下半身に与えられる刺激に耐えながら、手塚はなんとか言葉を搾り出した。
「よ、よせ」
「止めていいの? 本当に?」
 不二はベッドから腰を下ろすと、手塚の足の間に正座した。不二の目の前に手塚の股間が来ている。
「ま、待て……」
 不二の意図を察して、手塚は制止の声を上げた。
「もう辛いでしょ、ここ」
「……っ!」
 そういうと、不二は手塚のベルトを外して股間を広げた。露にした下着を下にずらして、反応を返していた手塚自身を外気に晒す。
 不二はそれを片手で掴むと、愛しげに先端にキスをした。それだけのことにも手塚の身体は大きく震えた。その様子を見て不二は笑った。
「口でしてあげるね」
「やめ……」
 いいざま、不二は亀頭をぱくりと口内に含んだ。生暖かく濡れた感触に包まれて全身が震える。それ自身が生き物のように、不二の舌は手塚の先をじっくりと嘗め回した。弛む皮を舌で広げるようにしながら、上へと舐め上げる。
 液体の溢れてくる鈴口付近を集中的に突かれて、手塚はたまらず身体を折った。
「くっ……や、めろ……」
 手元のシーツを握り締めて耐える。不二は一度口を外すと、不二自身の唾液と手塚の先走りの液で濡れた口元を拭った。
 手塚を見上げながら、小首をかしげる。手にはまだ透明な液体に塗れた棹の部分を握っている。
「気持ちいい?」
 視線が合うが、羞恥のせいで手塚は視線を逸らした。顔を合わすことがどうしてもできなかった。不二はむっとしたのか、手塚のものを握った指に力を込めた。
「答えないつもりだね……」
「……っ!?」
 不二は再びフェラチオを始めた。今度は喉の奥まで全体を飲み込むと、何度も何度も繰り返して口を上下に動かし始めた。まるで実際の行為でするように。唇で包まれながら何度も棹を上から下まで擦られる。
「くうっ……」
 時折質量を増したそれに軽く歯を立てられる。その痛みとも快感ともつかない感覚に気が遠くなる。
「不二……っ」
 不二は頬肉で先端を包むと、射精を促すように強く吸い上げた。
「……く……ぅっ!」
 手塚はきつく眼を閉じた。身を震わせて手塚が出したものを、不二は全て口内で受け止めた。

「やっぱり、溜まってたんだね」
 手塚の出したものを全て吸い上げて飲み干して、不二は意地悪げに微笑んだ。
「すっきりした?」
「……っ……す、すまない……」
 自分のやったことを思い出して、手塚は頭を下げた。不二の口の中に出してしまうなんて。
 だが、不二は手塚を責めなかった。
「謝る事ないよ。僕がやってあげたかっただから」
 その代わり……と、不二は立ち上がると、次は手塚の膝の上に座った。
「今度は、手塚の番。ね?」
「?」
 何の事だかさっぱりわからない、というような手塚の手を、不二は自分の股間へと導いた。そこに男子のような異物はない。
 今の不二は女であるという事実を、この瞬間まで手塚は完全に理解していた訳ではなかった。
 ここにきて、ようやくその事実が意味することを飲み込めた。
 不二は手塚の指をさらに奥へと誘った。
 頬を赤らめながら不二が言う。
「手塚も、触って」
「……!?……」
 手塚の目の前が真っ暗になった。

「手塚、手塚ってば」
 不二は、うなされている手塚の身体を揺すった。手塚は額に脂汗を浮かべながら部室の机に突っ伏している。
 時間はもう夕方七時。そろそろ完全下校時刻だ。
「いい加減に起きてよ、手塚。一緒に帰ろう」
 だが手塚は起きない。不二は少し眼を細めた。
「……でないと犯すよ?」
 低いドスの効いた声を耳にして、手塚は飛び起きた。
 いつの間にか寝ていたらしい。夢まで見ていた。悪夢だった。どうしようもないぐらいの悪夢だった。
 手塚は眼をこすると、目の前にいる自分を起こした人物を確認した。
「おはよう、手塚」
 眼前で微笑んでいる人物が不二だと脳が認識した途端、手塚はその場から飛びのいていた。
「ふ……不二!?」
「……どうしてそんなに避けるのさ。傷つくなあ」
 手塚の不可解な態度に不二は眉をひそめた。
「お、お前、女じゃ……女じゃないな!?」
「……何言ってるの手塚」
 不二は意味が解らない、といった顔で答えた。手塚はまじまじと不二を見つめた。今、目の前にいる不二は先ほどまでの不二とは違い、男子用制服を着ている。
 だがそれだけじゃ確実な証拠にならない。咄嗟に手塚は不二の胸に手をやった。
 そこにあるのは、何の膨らみもない男の胸だった。
「……男、か……」
 安心したように手塚はため息をついた。やはりあれは夢だったようだ。いったいどうしてそんな夢を見たのか考えたくはないが、とにかくあれは夢だったのだ。
 胸にじんわりと広がる喜びを噛み締める。
 だが不二はそんな手塚を冷ややかに見ていた。
「……なにいきなり人の胸触って安堵してるの?」
 顔は笑ったままだが、声には絶対零度の響きがあった。手塚はその声でようやく我に返った。慌てて手を退ける。
「い、いや、これは……」
「ひょっとして、お誘いなの? 疲れ過ぎて溜まってる?」
「……違う!」
 手塚は速攻で否定した。この流れでは結局夢と同じことになる。不二は手塚の腕をとって立たせた。まずい、このままでは本当に夢と同じ展開になる。
「僕は別に構わないよ? ホテル行く? あ、そういえば今日はうち誰も居ないし……」
「だから違うと言っているだろう!」
 手塚は身体を捩って不二の手を引き剥がした。不二はきょとんと手塚を見つめていた。
「じゃあどうして起きるなり人の胸まさぐったりしたの?」
「そ、れは……」
 手塚は答えなかった。……答えられるはずがなかった。あんな夢を見ていたなんて本人を前にして言えるはずがない。下を向いて不二と視線を合わせないようにしながら早足で歩き、部室から外に出た。
「……帰るぞ」
「あ、ちょっと待ってってば……せっかく起こしてあげたのに……」
 とっとと歩き出した手塚を不二は小走りで追ってくる。手塚は肩越しに見たその様子に既視感を覚えた。

 夢で見た不二を思い出す。

「そんなに早く歩かなくても……」

 同じ状況に同じ言葉。同じ声。同じ顔。同じ性格。
 違うのはたった一つ、性別だけで。
 後は全部同じじゃないか。

 そう考えたら、何か胸につかえていたものが取れた気分になった。

「…………」
 ぼんやりと立ち止まって考え事をしている手塚のもとに追いついた不二は、訝しげに手塚の顔を見上げた。
「何、考えてるのさ」
「……いや」
 手塚は手を振って答えをはぐらかした。不二はじぃーっと首をかしげながら手塚の方を見つめている。
「なんか、やけに嬉しそうだけど」
「……そうか?」
「そうだよ。さっきから変だけど……」
 手塚は少しだけ話をすることにした。
「さっき見ていたた夢に、お前が出てきたんだが」
「……夢?」
「お前が夢と同じ事を言うから、面白かったんだ」
 細部には触れずにそう説明した。
 不二は一瞬不思議そうな顔をしたが、ふいに納得したように微笑んだ。
「君の夢に出してもらえるなんて、光栄だね」
 そう言うと、不二は手塚の手を取った。
 手塚もその手を振り解く事はしなかった。
「帰ろ。校門閉まっちゃうよ」
「……ああ」
 不二は気付かなかったが、夕闇の中でほんの僅かに、手塚は笑った。


 ……疲れてるのは手塚じゃなくててめえの頭だろ、ってな話ですな……
何ホモサイトで『BOYS BE……』かいてるんだろう私。
えーと、不二子が女の子だったら容姿といい性格といい間違いなく手塚の好みだろうな、とかいう
どうしようもない脳内設定を元に作られた話です(……)
しかし冷静になって考えてみなくても……これ塚不二って言うんじゃ……(禁句)

ところで、寝ている手塚は夢精してなかったんでしょうかね……(聞くな)

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