てんし【天使】
(1)ユダヤ教・キリスト教・イスラム教などで,神の使者として神と人との仲介をつとめるもの。エンジェル。
(2)やさしい心で,人をいたわる人。「白衣の―」 (新辞林 三省堂)
Angel Song
……おまけ。
クリスマスから約七ヶ月が過ぎ、手塚は三年生になっていた。
「……で、僕が左肘治してあげたのに、どーして君今度は肩を壊すわけ?」
窓枠に腰掛けている天使は、半眼になって手塚を睨みつけていた。
彼と会うのはおよそ半年振りだった。
……というか、再び会えるとは、手塚はちっとも思っていなかった。
「し、しかたないだろう……どうも……無意識のうちに左肘を庇う癖がついていたようで……」
「あーそーですか、無意識ですか、ふーん。そーなんですか。せっかくの僕の好意も結局無駄にしてまた選手生命の危機に陥っちゃったわけだ、ふーん」
馬鹿にしたような口調が返ってきた。
反論したかったが、どうしようもないほど図星だったので手塚に反論できる余地はなかった。
関東大会第一回戦、氷帝学園との試合で、手塚は長時間の試合の末左肩を故障してしまった。
その治療のため、現在は九州は宮崎にてリハビリ中である。
その病室に、別れたはずの天使が顔を見せた。
「……だいたい……お前、あれが今生の別れじゃなかったのか……」
手塚としてはそのつもりだった。
もう、二度と不二とは会えないのだとそう覚悟していた。
そのつもりで、不二に願い事を頼んだというのに。
だが、天使はきょとんとした顔で、ぬけぬけとこう言った。
「え、僕そんなこと言ってたっけ?」
「…………」
……言われてみれば、確かに、そんな話は一言も聞いていなかったことを手塚は思い出した。こんなやりとりは以前に一度したことがあったようなこともついでに思い出した。
だが、あれだけ劇的な別れをしたからには、二度と会えないとか、そういうものではないだろうか、と思う。
そんなことを言っても不二には通じそうになかったので、手塚は苦々しい気持ちで肯いた。
「……そうだったな」
「まー僕も別の仕事中だしさ。あんまり長居してられないんだけどね。せっかくの願い事を無駄にしたターゲットがいるとなるとやっぱり会っておいた方がいいかなーって。アフターサービスって言うかぶっちゃけこっちに責任は無いんだけど様子ぐらいは知っておきたいって言うか」
不二の言葉にはいちいち棘があった。
だが、そう言われても仕方がないことは手塚自身痛いほど自覚していた。
せっかく左肘を治してもらったというのに、今度は左肩を壊したとなれば、不二が怒るのも当然だった。
「……悪かった」
手塚は素直に頭を下げた。
それ以上の言葉が出てこなかった。
「……今度は僕に頼らないで自分で治しなよ」
不二は手塚から目を反らして、冷たく言った。
「……全国大会で君のプレイ見るの、楽しみにしてるんだから」
そう言った不二の横頬が、わずかに赤くなっているのに手塚は気がついた。
「……ああ。そのつもりだ」
手塚は目を閉じて、そう答えた。
……おまけ……というか、オチでした。アホ塚め……
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