五時間目開始のチャイムが鳴ると、校舎のざわつきが急に静まり返った。
「授業、始まっちゃったね」
テニス部部室で、不二は困ったように微笑んだ。
いつもなら授業をサボる事を咎めるはずの手塚は何も言わなかった。
「まあいいか、君は今日来てない事になってるわけだし」
氷帝戦が終わった翌日。午前中病院で診察を受けていた手塚は、昼前に登校した。教室に直行せず部室に向かうところを不二に発見された。ロッカーに放置してある荷物の処分など当り障り無い話題を続けているうちに、何時の間にか昼休みは終わっていた。
グラウンドから、体育教師の笛の音が聞こえてくる。
「意外と盲点だよね、授業中の部室ってさ」
「……不二」
「僕達がここにいるって、誰も気付いてないだろうし」
ゆっくりと不二が近づいてくる。顔と顔がほんの数センチの幅で向かい合う。
「ちょうどいいよね」
唇と唇がゆっくりと重ねられる。
手塚はそれを拒まなかった。
昨日の跡部戦のことや、左肩について、不二は何も聞かなかった。触れもしなかった。
無理やりその話題を避けているように。
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不二は手塚の後ろに回ると、背中から覆い被さってきた。両手を前に回してシャツの裾から手を滑り込ませる。
少し汗ばんだ指先がそっと脇をなぞっても、手塚の不快感を煽るだけだった。びくりと身を硬くする。
「つっ……」
「部室でされるの、嫌いだよね」
と言いながら、上半身全体を弄っている手を止める気配がない。
解っているくせに……解っているからこそ、不二はこうやって情事に及んでいるのだ。
「そう言えば初めての時も部室だったよね。思い出すから嫌なの?」
手塚は答えなかった。最初がどうだったかは関係無い。思い出したくも無い。そもそも神聖なる部室でこんなことをする事態、手塚にとっては大問題なのである。
「……でも君、だいぶ成長したよね。あの時とは大違いだ」
平らな胸にある突起を摘まれて、喉の奥から思いがけず高い声が漏れた。自分のものとは思えないような甘い声。
「こんなところだけで感じてるんだもん」
「ひぃ……っ」
「もともと淫乱な身体だったんだよね、きっと」
意地の悪い口調で苛まれながら、固くなっていく突起を弄られる。指の腹で押し潰されるように捏ねられると甘い痺れが走る。胸を反らし宙を仰ぐと、不二は仰け反った首筋に後ろから舌を這わせた。うっすらとかいていた汗を舌で舐り取る。
「こっちも感じてる?」
不二はゆっくりと指を下に降ろしていくと、ズボンのベルトに手をかけた。すぐに外すとチャックを下ろし、下着の中におもむろに指を突っ込んでくる。胸や首への刺激とこれからの行為に対する期待だけで反応していることを知られるのは、この上なく屈辱だった。
「やっぱり」
「く……」
不二の声が持つ嘲るようなニュアンスに、目をぎゅっと閉じた。
「直接触ってあげてないけど、もう辛そうだね。脱ごうか」
そう言うと、ズボンと下着に両手をかけられた。何を、と思う間もなく一気にそろえて膝まで下げられる。
股間が外気に晒されたことで、羞恥心がいやおうなく増す。部室の窓から入り込んでくる陽光の中でこんな行為を強制させられている自分がたまらなく惨めだった。
だが、羞恥心も、快感の一部にすぐに変化する。
不二の指が剥き出しになった敏感な先端に触れて、手塚は思わず出そうになる悲鳴を必死で押さえた。
「……ッ……」
「強情だね、相変わらず」
不二はの声にかすかに不機嫌な色が滲む。上下に扱く指がきつくなる。締め付けられることに痛みは感じるが、それでも反応してしまうのが男の生理だった。もう片方の手で再び乳首を弄りまわされると、上下の性感帯が繋がったかのように感じられる。同時に耳の後ろを吸われて、全身から力が抜けていく。自分で立っていることが出来なくなって、体を半分に折るような姿勢で、目の前のロッカーに縋りついた。不二に対して腰を突き出した格好になるが、一度に三箇所を攻められて強引に身体を高められていくうちに、自分のしていることが気にならなくなってきた。そしてこの場所も。
胸を嬲っていた手も下にやってきて、指が一本、強引に奥に入ってくる。女性器のように自分から滑りを帯びないそこは、潤滑を助けるものを何も与えられないままこじ開けられた。
排泄を行う器官に無理やり指を挿れられる、何度同じ行為を繰り返しても慣れない感触。入り口が裂けそうな痛みに奥歯を噛み締める。
「やっぱりこのままじゃきついね……」
不二は机の上にちょうど置いてあった軟膏に片手を伸ばすと、蓋を開け少し指にとった。それをもう一度、手塚の奥へと差し入れる。ひんやりとした軟膏の感触が手塚に理性を取り戻させた。
「ふ、じ……っ」
気力を振り絞って反抗するように首を横に振る。こんなところで、こんなときに最後までするのは嫌だ、と口には出さずに訴える。
だが不二は、手塚を宥めるようにそっと首の裏にキスをすると、何も言わず指を押し込んだ。
「あぁっ……」
突然の感覚に全身を硬くする。スムーズに挿入された指を軽く抜き差しされるたび、ぐちゃぐちゃと熱で軟膏が溶けていく音がした。先ほどに比べれば痛みは少ないが、なんともいえない圧迫感と嫌悪感だけは拭いがたい。ロッカーの縁をぎゅっと掴んで縋りつきながら与えられる行為に耐える。
不二の指が前立腺をかすめると、腰が痺れてますます立っていられなくなった。崩れ落ちそうになる身体を後ろから不二の腕が支える。前は先走りの液が溢れるほどに膨張しているが、射精に至るまでは高められきっていない。それでも、後ろから与えられる刺激だけでびくびくと先端が揺れる。
「こんな時ぐらい……泣いてみたら?」
耳朶を甘噛みしながら不二が囁く。
ドアの鍵は閉めていない。授業中だとはいえ、誰が来るか解らない。物音を聞いた用務員や体育の授業中の生徒や教師がやってくるかもしれない。
そんな場所で、無理やり後ろから犯されている。
「痛いなら大きな声で泣いてみてよ。そうしたら、助けが来てくれるかもしれないよ?」
もっとも、と不二はクスと笑って続けた。
「こんな姿を見られてもいいって言うのならね」
ズボンを膝まで下ろし、下半身を曝け出しながらチームメイトに強姦されている自分。前を高められ、後ろに指を入れられて、それで感じてしまっている自分。他人にこの姿を見られるような事は絶対に出来るはずがないという不二の余裕の笑みに反感は湧くが、だからと言って自分から声をあげることは出来ない。
決して。
「無理、だ……っ」
「……どうして?」
不二は首を傾げた。
「嫌なら嫌だって、辛かったら辛いって泣いて叫んでみてよ」
そう言うと同時に、不二は三本の指で内部をかき回すように蹂躙した。それでも手塚は大きな声は出さなかった。筋肉の壁を無理やり開かれる痛みに耐える。
「……んっ……はぁっ……」
ぐるりと指を捩られると、内部の粘膜もそれにつられて大きく捻られる。内臓をじかに捩られるような気分に吐き気がこみ上げてくる。軟膏の滑りのおかげで粘膜の痛みは少ない。だが、何度もそれを繰り返されるうち、痛みよりも熱さで何がなんだかわからなくなってくる。熱を帯びた下半身に全神経が集中する。
「ひぃっ……」
「苦しかったら苦しいって言ってみなよ。悔しかったら悔しいって……泣いて……」
不二の声が、小さくなっていく。
内部を犯す指の動きが、ぴたりと止まった。
「……解ってるよ、君は弱音なんか絶対吐けないってこと」
吐かないんじゃなくて、吐けないんだと、不二は言った。
手塚は何かを訴えるように不二を伺う。
「ふ……じ」
「……でも、だから」
視線がふと交わって、不二はそこで口を噤んだ。
そのまま何も言わずに、指を手塚の中から引き抜いた。
指を抜かれる時、手塚は粘膜までも引きずられるような痛みにわずかに顔をしかめた。だが、それを気にする暇も無く臀部を割り開かれると後ろから熱い肉の隗を押し込まれた。
「う……あっ!」
身体を裂く質量の大きさに息が詰まる。腰を両手で支えられながら無理やり奥へと捩り込まれる。強引な挿入に手塚の体中が強張るが、不二はそれでも深くまで自身を差し入れた。
指では届かなかった奥まで無理やり貫かれる。
「ひあ……ッ」
片方の手を前に回され、震える自身を扱き上げられると、後ろにもぎゅっと力が篭った。
それが内部にある不二自身を締め付ける結果となる。
「……手塚、きついよ……」
そう言うと不二は一度腰を引いた。内部から熱い肉隗が粘膜を伴って出て行く。ぽっかりと身体の奥が空洞になったかのような感触に、一瞬手塚の身体から力が抜ける。
その隙を見計らって、不二は再度腰を突き上げた。
「……ひぃ……っ!」
擦り上げられる粘膜が痛みを持つが、その熱さはすでに快楽と同義語だった。
立ったまま、下から何度も突き上げるようにされ、思わず高いよがり声を上げてしまう。
全身がガクガクと震え、ロッカーに縋りつく手から力が抜けていった。
二人同時に一度達した後、一度不二は自身を手塚の内部から抜ききった。
支えを無くして部室の床に倒れこんだ手塚を、不二は肩で息をしながら見下ろしていた。
乾いた唇を湿らすように舌なめずりをする。
そして右側を下にして手塚を横倒しにすると、左脚から膝に絡まっていたズボンと下着を抜いた。左脚を高く抱えあげる自分の肩にかける。先ほどの刺激にまだ少し口を開いたままの場所が、赤く充血した肉壁を見せている。そこからどろりと溢れている自分の精液に満足感を覚えながら、不二は今度は横から挿入した。
白い液体を潤滑剤代わりに、一気に奥まで侵入する。
「く……ああっ!」
脊髄を駆け上がるような衝撃に、手塚は声を抑えるのを忘れてしまう。
意識を飛ばしている間にいきなり貫かれた。
一度ほぐされてぐちゃぐちゃになっていたソコは、簡単に不二を受け入れていった。
更に深くまで潜り込むために、不二は大きく脚を持ち上げた。股を大開きさせられ露わになった秘所に、ぴったりと腰を密着させられる。
「あ……アッ……!」
「凄い……奥まで入った……解る?」
「……んっ……ううっ……」
不二は今度は激しく抽送するような事はなかった。根元まで埋め込んだまま左右に揺らす事で手塚の反応を楽しんでいる。
先端の太い部分を揺らされると、内部の壁がそれに反応しているのが自分でも解った。内臓の深い場所が感じられて頭が混乱する。瞳を閉じると、直腸の奥の物体が余計にリアリティを伴って感じられた。身体の内部の知らない場所を無理やり反応させられ、自分が自分ではなくなってしまったかのような錯覚に陥る。
気がつけば、手塚の前も再び硬度を取り戻していた。不二がそれを手のひらで包む。
「……苦しい?」
不二の問い掛けに、うっすらと瞼を開く。
「も……う……」
「苦しかったら……叫んでいいんだよ」
霞んだ視界の中に見えた不二は、いやにぼやけていた。
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「……本当に……強情なんだから」
汚れた手塚の下半身を拭ったあとで、不二が呟く。中に出してしまった自分の精液の処理をし、きちんと下着をズボンを纏わせ直すと、不二は手塚の足の間に座り込んだまま視線を床に落とした。
そんな不二を見ながら、手塚は溜息をついた。
「……お前こそ」
顔を上げない不二の首に両手を回し、顔と顔を近づける。まだ乱れたままの息遣いをなんとか落ち着けながら、手塚はゆっくり不二の汗ばんだ前髪をかきあげてやった。
「……こんな時でもなければ……泣かないのか」
「!」
不二が目を見開く。
そう言われて、初めて自分が泣いている事に気がついたようだった。
涙が筋を作っている頬に不二は恐る恐る指をやり、濡れている事を確かめた。
「……っ」
手の甲で涙を拭うが、次から次へと透明な雫は溢れてきた。
「不二」
名前を呼ぶと、再び不二は泣き顔を隠すように下を向いた。
「ちがう……僕が泣きたいんじゃない、君が……泣かないから……」
言い訳をするように首を横に振る不二の手を取ると、手塚は不二の頭を胸に抱え込んだ。
「悪かった」
『何』に対して謝られたのか解った不二は、ゆっくりと目を閉じた。
ぽつりと小さく口に出す。
吐き出すように。
「……君が負ける姿なんて、見たくなかった」
「すまない」
「解ってるよ……君のせいじゃない……君が謝ったからって、どうかなるものでもないよ」
それでも手塚は、謝ることしか出来なかった。
「……すまなかった」
不二は何も言わずにその言葉を聞いていた。
……確か対跡部戦、手塚が負けた辺りで考えてたネタ。
あの後怒涛のようにピヨ(日吉)だったりボーリングだったり黒大石だったり九州行きだったりで
すっかり書く機会を失いお蔵入りになってました……陵辱ってことで復活。
……あれ? 陵辱? 和姦っぽい……?
何にせよ時期をずらした話で申し訳ない。
怪我人に手を出すほど天才様は悪人ではないと思うんだがそれも申し訳ない。
……事後にやってることが相変わらず塚不二で申し訳ない……。
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