14.バイブ

 二月も終わりに差し掛かった、ある寒い日のことだった。

「何ですか、話って……」
「不二君、これ」

 大和に突然部室に呼び出された不二は、会うなり突然包みを手渡された。
 部活のない三年生と会う機会はめったに無い。大和とはそれなりに会ってはいたものの、いきなり昼休みにメールで呼び出された時は何事かと思った。
 久しぶりの用事が、これらしい。
 20cmほどの高さの筒型の包みだった。ピンクの包装紙で包まれていて、その他リボンやレースなどで綺麗にラッピングされている。
 いったい何の冗談だろうと思いながらしげしげとそれを眺めていると、側面に一枚のカードが貼り付けてあるのを見つけた。

 桜色のカードには金文字で「HAPPY BIRTHDAY」と書かれてある。

 不二が驚いて顔を上げると、大和はそれを見越したかのように微笑んだ。
「誕生日プレゼントですよ。2月29日でしょう? ちょっと早いですけどね」
「!」

 確かに、もうすぐ不二の誕生日ではある。
 だが、この人がプレゼントを用意しているとは不二は思っていなかった。
「……あ」
 ありがとうございます、と、不二は小さな声で呟いた。

「開けてみて下さい。きっと気に入ってもらえますから」
 大和は嬉しそうに言った。その言葉に甘えて不二はリボンを解いていった。
 筒型と言う形から連想するに、何か細長いものなのだろう。ラッピングがやけに少女趣味なのは気になったが、ものをもらうのは素直に嬉しかった。

 そんな不二を、大和も幸せそうに眺めていた。 
「いろいろ考えたんですけどね、不二君の好きなものとか」

 包装紙の中から、プラスチック製の円柱が見えた。テニスボールがよく入っているもののような。なるほど、ボールならいろんな意味で間違いはないだろう。そう不二は思った。

「でも僕はもう卒業だから、思い出になるものがいいだろうって……」

 だが、包装紙を全てはがし終えた中から出てきたものを見た不二は、我が目を疑った。

「………………!!」

「君が寂しくないように、と……」

 プラスチックの円柱の中に入っていたのは、男根を象った趣味の悪い大人の玩具だった。
 ご丁寧に色や形もしっかり再現してある。カリも怒張時の血管までも、しっかりと。

 あまりに予想外のモノを目にした不二は、思わず絶句した。

「あ、もちろん、僕のモノ(勃起時)をそのまま象った特注品ですから! 大きさ・太さ・形・色、それら全て本物に忠実に再現してもらいました!! 一本モノですから奥深くまで挿入可能ですし左右回転機能・ピストン運動機能付きで不二君一人でも満足できる事もう間違いなし!!」

 饒舌に能書きを垂れる大和は、不二が自分のプレゼントを持った右手を頭上に振りかざした事に気付かなかった。

「IC機能も搭載してますから単純なスイングだけにとどまらず様々な動きも可能となってるんですよ!? これだけ運動性が高いにも関わらず動作音は静かで、家族がいても安心して使用してもらえます! 素材はハリウッドで使用している特殊素材を使っていますから質感もかなり本物に近く……」

 ばっこーん。

 不二が力一杯投げつけたそれは、見事に大和の顔面にヒットした。

         :*:・。,☆゚'・:*:・。,★,。・:*:・゚'☆,。・:*:  

 それから二年後のある夜、不二の自室でのこと。

「ちょ……ちょっと待て、不二!!」

 ベッドに押し倒された手塚は、不二がどこからか取り出した異様な物体を目の当たりにして、たまらず拒否反応を示した。
 不二が手に持っているそれは、所謂バイブと言うものだった。
 話に聞いたことぐらいはあるが、実物を目にしたのは当然ながら初めてだった。細部までリアルに再現されたそれは、見れば見るほど本物そっくりだった。

「そんなの……む……無理だ……っ!」

 あんな太いものを身体に入れられたら間違いなく裂ける。酷い目に会うのはゴメンだ。なりふり構わず手塚は抵抗した。

「頼むっ……止め……止めてくれ……!」

 だが、不二はその細身からは考えられない腕力で、手塚を押さえつけていた。

「大丈夫だよ」
 不二は優しく微笑んだ。だが、その柔和な笑みは、顔の横で機械音をたててうねっている悪趣味なモノとは完全に不釣合いで、手塚の恐怖心を煽り立てるだけだった。

「キツイと思うけど、慣らせば、ちゃんと入ったから……」

 不二のその言葉に、手塚はふと、違和感を覚えた。
 ほんのつまらないことではあるが。

「不二……その」
 だが、気になったからには聞かずにはいられなかった。

「……何故、『入った』って……過去形なんだ?」

「…………!!」

 その些細な問いかけによって、不二はピタリと動きを止めた。

          :*:・。,☆゚'・:*:・。,★,。・:*:・゚'☆,。・:*:

 その日、結局不二が萎えたおけげで、手塚は難を逃れた、と言う。


『不二誕生日記念SS〜大和編〜』と称して考えてて、
「さすがにそれはどうか……」という良心が書くのを止めさせたもの。

まさかこんなとこでお披露目するハメになるとは……(ほんとにな)。

しかし100のお題、最初に書いたのがコレだと言う。先行き激しく不安。

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