7.首輪

 一部の人間しか知らないことではあるが、テニス部副部長・隠岐は小動物愛好家である。
 いかにも体育会系で規律を重視し、遅刻や怠惰にうるさく、一部では鬼軍曹とまで呼ばれているにも関わらず、『今日のわんこ』を見てから登校するのが日課だったり、『ポチたま』を毎週欠かさず録画してたりする。
 そしてこれは更にごく一部の人間しか知らないことなのだが、ごく最近、ついに念願叶って家でも子猫を飼い始めたのであった。

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「悪いな、付き合わせて」
「いえいえ、近くの本屋に寄るつもりでしたので」
 放課後の部活も終わり、帰り道、大和と隠岐は並んで歩いていた。隠岐は最近飼い始めた子猫の離乳食を買うため、駅前の大型ホームセンターチェーン店に行くのだと言う。それに大和も付き合っているのだ。

「……ていうか付き合ってくれとか頼んだ覚えこれっぽっちもねえんだけど、どーして付いて来たんだお前」
「……いえ、小動物にメロメロになってる隠岐君なんて是非ともこの目で拝ませてもらいたくて」
 それがお互いの本音であった。

 店の中で、メモを片手に離乳食の棚を覗きながら、隠岐はご自慢の子猫についてべらべらと話し始めた。

「アビシニアンの雄なんだけどさ、元々は親父の知り合いで繁殖してる人からもらったんだ。まあうち、ずっと猫飼うの母親が反対してたんだよな。『猫は人のいうこと聞かないから嫌だ』って。ま、アビシニアンって種類は犬に似た性格だって話だからな。結構賢いらしいし。だからなんとか説得出来たんだけど、いざ飼い始めたら、母さんが一番可愛がってるんだもんなあ……。なんかデジカメで写真とかバシバシ撮ってるし。今日だってネットでお勧めの離乳食について調べたとかで、で、俺がこうやって買い物に行かされてるわけ」
「はあ……そうなんですか」

 そう言う君もメロメロみたいなんですが、と大和は突っ込みたかったが、顔をにやけさせている隠岐に今突っ込んでも無駄だろうと判断して黙っておいた。テニス部では「菩薩の部長・仁王の副部長」と並び称されていると言うのに、なんとにやけた表情をしているのだろうか。部員に見せてやりたいぐらいだった。

「ま、気持ちは解るかなー……まだ三ヶ月ちょっとで、片手に乗るぐらいちっちゃくてよー。今一番可愛い時らしくてさ、猫じゃらしとかで遊ぶとすげー反応してくれるんだよなー。ちょっと振るだけで飛びついてくるんだよ。こっちが遊んでやれなくても一人で勝手に楽しんでるし。あんなちっちゃくても野生の血なんだなーってちょっと感心したよ。もうそれが楽しくて楽しくて何時間見てても飽きないんだよな……。まだちっちゃいから、ベッド代わりのダンボールから一人じゃ出られなくて、必死によじ登ってる姿とかすげー可愛いんだよなあ……」

 愛猫についての話だと妙に饒舌になっている自分を意識しないまま、隠岐は語りつづけた。猫に「一人」とか言ってる時点でだいぶ重症である。大和はそれを笑顔で聞き流していた。

「で、予防接種の時とか……って聞いてるのかお前」
 ふっと我に返った隠岐は、大和のほうをじろりと睨んだ。
「え、聞いてますよー」
「……いや聞いてないだろ」
「聞いてますってばー」
 大和が適当に流しているうちに、隠岐は目当ての離乳食を見つけたらしい。棚からその箱を一つ取ると、レジへと向かっていった。
「買ってくるから、適当に待っとけよ」
「はーい」
 副部長の後姿を見送りながら、大和は笑って手を振った。

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 レジは夕方という時間帯もあってか、かなり込んでいた。隠岐はようやく目的の買い物を終えて辺りを見回すと、連れの姿が先ほどの場所には見えなかった。まあ店から出ていることはあるまい、と店内を歩き始めた。
 探している人物は、子犬の檻の前に座り込んでいた。手を振っている大和に対して、ラブラドールレトリバーの子供は、尻尾をばたばたさせて反応している。

「なんだお前、犬派だったか?」
 隠岐にはちょっと意外だった。愛犬家の持つ健康的なイメージとは大和は程遠いからだ。
「うーん、どうでしょう……」
 その問い掛けに、大和は首を捻った。

「犬はですねえ……あの従順さっていうか、自分に必死に懐いてくれているところが可愛いんですよねえ……絶対に人のこと裏切りませんし誠実ですし、こっちからもしっかり信頼しようって思えるんですよ。あのつぶらな何の疑いも持っていない瞳で見上げられると何が何でも大切にしてあげようって気になっちゃうんです。もういつでもどこでもベッタベタに甘えてくれて『あなたの言う事なら何でも聞きます』みたいな感じは……まあ確かに、嫌いじゃないんですけどねえ……でもちょっと、主体性が感じられないところに……」

「…………へえ」
 隠岐はコメントに困った。
 大和の言う言葉が、よく知っているある一人の後輩に当てはまりそうな気がしたからだ。
 その後輩はどういうわけだかある意味呆れるほどこの学校一の要注意人物に懐いている。生真面目で誠実で、こいつとは正反対の性格の持ち主なのだが。

 そんな隠岐の心中を知ってか知らないでか、大和は更に話を続けた。

「一方猫だと、気まぐれでしょう? マイペースだし、都合のいい時だけ甘えてくるじゃないですか。まあそれって確かに自分勝手だとは思いますけどね、ただ人に決して媚びなくて懐いてくれないプライドの高さが見てるこっちとしては可愛いんですよねえ……気が乗らないとつれない態度をとりますけど、甘える時は甘えてくれる……そう言うところが猫の良さですねえ。あと、猫の何事にも自由な感じってちょっと憧れますしねえ……。ほら、犬と自分って主従関係みたいなところあるじゃないですか、でも猫ってあんまりそういう関係に拘らない感じで、お互いに気を使わないでいいっていうか。ベタベタした付き合いになりませんから……」

「な、なあ……」
 隠岐は大和と目を合わせずに語りかけた。
「お前がいったい誰と誰のこと考えてるのか、手にとるように解る気がするんだが……」

 正直な話、解りたくはなかったのだけど。三年間の付き合いのせいでこの男の思考回路が見抜けるようになってしまっている自分が正直恨めしかった。

 だが隠岐の言葉に、大和は首を傾げた。
「え? 何言ってるんですか? やだなあ犬と猫の話でしょう?」
「……いや……」
 想像すると怖いことになってきたので、余計な詮索はしない方が良さそうだと感じた隠岐は、それ以上の追及を止めた。

 ふと、大和の手に店の袋を見つけた隠岐は、ちょうど良かったとばかりに話を変えた。
「あれ? いつの間に……何か買ったのか?」
 大和はそう言われて袋を持ち上げると、軽く微笑んだ。
「あ、はい。うちの猫に良く似合いそうな首輪があったので……」
「? ……お前んち、猫なんて……」
「ええ、最近少し。……もう全っ然懐いてくれてなくて触ってもすぐ爪たててくるんですけどね、それでも首とか可愛がってあげると結構気持ちよさそうにするんですよ。そのギャップが……」
「いや……もうそれ以上喋るなお前」
 隠岐は大和の妙に嬉しそうな笑みを見て、言葉を止めた。
 嫌な予感がしたからだ。
 自分の精神安定のために、これ以上は何も聞かないほうが良さそうだった。

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 数日後、小さな鈴のついた首輪を不二にプレゼントした大和は、その後数日間不二に口を聞いてもらえなくなる訳なのだが、それはまた別のお話。


テニスで猫っていえば菊丸だろうが、と書きながら思ってたのですが。ごめんなさい。
エージは元気な茶トラで、不二子は気高い黒猫だよね…………つまり3−6はにゃんにゃんコンビだった訳だ(結論)
王子も猫系ですね、そう言えば。カルピンでいいや(投げやり)。

……この話書くために猫サイト回ってたんですが。
アメショの子供が!! こーどーもーがー!!!! ぎゃー!!!! ラブリィィィィィイイー!!!!!

……ちなみに管理人は激しく猫派です。

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